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氷使いの日常  作者: おおかみ裕紀
第1章 コノート村編
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Ep.17 - 畏怖の感情は唐突に -


 「イツキ、起きろ。

  異常なしだ。 そろそろ動くぞ。」


 グランさんの強い揺りに、俺は目覚めた。

 背中が痛い。

 土の上で雑魚寝は流石に嫌だったから、大樹を背に体を起こして寝てみたけど…。

 やっぱり、シートか何か持ってくるべきだったな。

 この生活を続けてたら背中やら腰が悲鳴をあげそう。


 腰元についていた土を軽くはらい、足元の剣とポーチを手に取り準備する。

 体の動きを確認して、若干の痛み以外は問題なし。

 今日もバッチリ。


 …しかし、それにしても、流石に肌寒い。

 焚き火もすでに消えてるし、毛布か何かが欲しいな。

 まあ、半袖にレザーの装備しかつけていないからなんだけど。


 日陰だらけの森ゆえに、村の方の暖かい気候とは違ってここは基本涼しい。

 寝るとき、風邪ひかないように気をつけないと…。



 ふと横を見ると、木の根を枕にしている、まだ眠っているイーファちゃんの姿が目に入った。

 そういえば、彼女の寝顔を見るのは初めてかもしれない。

 時間だし起こそうと思って軽く声をかけてみるも、むにゃむにゃとうわ言のようにつぶやくだけ。

 ちょっと肩を揺すってみても、不機嫌そうにうなるだけで全然起きる気配がない。


 「イーファ、寝起き悪いんだよ。

  なかなか起きないと思うよ、それ。」

 

 「朝弱いんですね、イーファちゃん。」


 「まあな。

  自己管理がまだまだ下手だからね。」


 「あ、そうなんですね。

  しっかりしてるから、てっきり自己管理も完璧なのかと。」


 「いやー、まだまだ子どもだよ。

  15歳で成人つっても、傭兵として能力があっても、コイツはまだ15の子供だからね。可愛いところもあるもんだよ。」


 

 そうか、彼女はこんな立派に見えてもまだ15歳の子供なんだ。

 15歳って言うと、まだ高校生なりたてくらいの時期。

 顔に幼さが残ってて、まだまだ子供だななんて親戚のおじさんに言われるような年齢。

 同じ年の俺だったら、受験終わりに浮かれてアニメをずっと見ていただろうに。

 何年も前から最前線で戦ってきているんだ。

 …やっぱり、彼女はすごいな。

 俺も頑張らないと。


 とは言ったものの、そろそろ目覚めてもらわないと話にならない。

 さて、どうするか。


 「グランさん、イーファちゃんはいつもどうやって起きてるんですか?」


 「そうだな…しばらくすれば起きるとは思うが…。

  …わからん、機嫌損ねてもめんどくさいし背負っていってくれ」


 「え、背負うんですか?

  おんぶですか、俺が?」


 「お前しかいないだろーだって、戦闘は基本俺だけで十分だし。

  どうせ数十分すれば起きるんだから、重めの荷物運びってことで、な。」


 女の子をおんぶするってのがちょっと気乗りしないけど…。

 確かに、俺がこの中で戦力になるとは思えないし、仕方ないか。


 とりあえず、イーファちゃんの…どこ持てばいいんだ。

 脇下かな?

 いや、ネットの伸びる猫みたいにしかならない。


 じゃあ、おしりの方?

 …なんか悪いことしてる気分。

 女子の体なんて触ったことないし、変な所触って気悪くさせたらと思うと少し不安が残る。


 …ここは、お姫様抱っこでいこう。

 うん、それが一番いい。


 根っこを枕に寝ているイーファちゃんの背中と腰に手を回して、ゆっくりと腰を上げる。

 生前だったら持ち上げられていたか怪しいけど、ここは日々の特訓の成果か。

 …決して、彼女が重いとか言っているわけじゃないから。

 てか、なんならちょっと軽いまである。

 ちゃんと食べてるかな…ってのは今心配することじゃないか。


 金色の髪をいじりながら、我先にと歩みを進めるグランさんの後を追うように、俺は少しだけ急ぎながらついて行った。




 ───




 「ん…あ?」


 「あ、お、おはよう、イーファちゃん。

  えと、いい朝ですね…うん。」


 「…うすぐらくてそんなに…って、え?」


 イーファちゃんはぼーっと俺の顔を見つめると、次第に意識が覚醒していくと同時に頬を赤らめ始めた。

 

 「あ、あっ…あ、ごめんなさい!!」


 「えっあっ、だだ大丈夫だから!うん!」


 お互いに何かに焦りながら、俺はジタバタ足を振る彼女を降ろして一息つく。

 

 「ごめんなさい…朝は弱くて…。」


 洋服のポッケから白のシュシュを取り出して、髪を結えながら照れくさそうに話す。

 なんだか、年相応な姿が見れて少し嬉しい。


 「…重くなかったですか?」


 「え、全然だよ。

  なんならちょっと軽かった気もするし。」


 「そ、それならよかったです…。」


 代わりに抱えていた荷物を手渡して、いつでも戦えるように杖を装備。

 これで、彼女も準備万端。

 何が来ても対処はできるはず。


 …それにしても、昨日もそうだったけど、この森はやけに静かだ。

 もっとこう…動物の生活音とか、魔物がぼちぼち点在しているのかなと思いきや、そんなこともないし。

 嵐の前の静けさと表現すると不吉だけど、あながち間違いでもないかもと少し警戒を強めておく。


 2人も同じような空気を感じ取ったらしい。

 最初に口を開いたのは、イーファちゃんだった。


 「…ここの一帯は、魔力が一際濃いです。

  襲撃の可能性もあります。

  イツキさん、私から離れないでください。」


 警戒を強め、少しだけ身を寄せて剣の持ち手に手をかける。

 俺には殺気や魔力を感じ取る能力がない。

 奇襲なんてものをかけられたら、後手を踏むのはまず俺だ。

 気をつけるべきは、死角からの攻撃。


 アンデッド程度なら、今の俺でも太刀打ちできる。

 問題は、魔法使い系の魔物がいた場合だ。

 魔法耐性の装備みたいなのも付けてないし、撃ち合いできるほどの魔法を持ち合わせていない。

 せいぜい撃てたとしても、ウィンドかウィンドバレット、ただこの2つが有効打になることは基本ない。


 盾にするようで悪いけど、イーファちゃんよりも後ろで援護射撃をする程度に収めたほうがいいだろう。

 せっかく剣技を教えてもらったのに使わずなのは申し訳ないけど、ここは実力者の2人に任せよう。


 一応小石拾っとくか。

 この技中指の爪割れるから連発したくないけど…背に腹はかえられない。

 多少潰れてもダメージが通るなら連発する覚悟でいこう、俺には役割がないんだから、それくらいはしないと。


 警戒して歩いていると、地面の何かにひっかかってしまい少しつまずいてしまう。

 ふと足元を見ると、1メートルほどの広いくぼみがあることに気がついた。

 ぱっと見、恐竜の足跡と言われてもおかしくない…というか、これがもし足跡なら…。


 「避けろ!!」


 焦りを含んだグランさんの呼びかけに、俺は急いで頭を下げてほふく前進の形になる。

 だが、隣にいたイーファちゃんは、迫り来る何かを迎え撃とうと、切羽詰まった表情で杖を構えていた。


 すると、瞬く間に目の前がカッと光ったかと思うと、すぐに轟音があたりに鳴り響く。

 なんだ、爆発?

 俺たち、爆撃でもくらったのか。

 …でも、痛みだとか手が動かないってことはない。

 一体何が…。


 そう思考を巡らせていると、光がだんだんと落ち着いてくるのと同時に、隣で何かが倒れるようなドサッという音がした。

 強く閉じていたまぶたを少しずつ開き、元々イーファちゃんが立っていた場所を確認すると、彼女が血だらけの肩を抑えながら苦悶の表情で倒れ込んでいた。


 「イツキ!! イーファが持ってるスクロールを使え!! 中級回復魔法ならお前の魔力量でも使えるはずだ!!」


 イーファちゃん、そう声をかけようとするも、言葉が喉を通る前にグランさんの声が届く。

 スクロールってなんだよ、突然スマホの用語出してきて何かと思考する前に、俺は身を震わせるような恐怖感に見舞われた。


 ドスン、ドスンと巨大生物が歩むような振動が遠くから聞こえてくると思うと、それはすぐに近くなり、俺が視認できる距離にそれはいた。

 …いや、たぶん主は別のヤツだ。


 「上級相当の魔法を使ったのに受け流された…不意打ちだったのに…」


 生気のないか細い声が聞こえる。

 それは俺の目線とは全く合わず、まるで建物の2階から話しかけられているような感覚に陥る。

 目の前には、体長はゆうに4メートルは超えているであろう、俺の認識で言うオオカミのような巨大生物がいた。

 そしてわずかに見える白髪が声の主だろう。

 下半身はオオカミの体で隠れているけど、腰辺りまでありそうな真っ白な髪に、グレーの三白眼。よく見えないけど、かなり幼く見える。


 「…失敗した。

  けど…幸運でもある…かな。」


 「今のを避けられるってことは…うん、あなたは上級以上の剣士……。」


 「何をゴチャゴチャ…」


 今は睨み合っている状態だけど、先制攻撃を仕掛けてきたのはあっち側だ。

 次の攻撃がいつ来るかもわからない。


 グランさんはもう剣を抜いてる。

 俺も加勢するべきか?

 いや、戦力になるわけない。

 少なくともさっきの攻撃を見る限り、真正面から戦いに行っても俺は足手まといだ。

 俺の今の役目はイーファちゃんの応急処置…そうスクロールを探す。

 えーと、スクロールってなんだっけ…。

 ああくそ、思考がぐちゃぐちゃだ。

 焦りか恐怖かもわかならい。


 とにかくスクロールってやつを探さないと。

 スクロール…あ、多分これだ。

 何やら魔法陣が書いてあるガサガサの紙、多分これがスクロールってやつだ。

 これに多分…魔力を流すんだよな。

 

 早速魔力を流してみると、体から血が抜けていくような感覚と共に書いてある魔法陣が光り、イーファちゃんの負傷部分へと吸い込まれるように光は進む。

 


 「イツキ!! イーファを抱えてできるだけ遠くまで逃げろ!!」


 回復の途中、グランさんが啖呵を切るように叫ぶと、さっきまで一寸も動かなかったオオカミはものすごい勢いで距離を詰めてくる。

 

 考える余地はなかった。

 その時の俺の役割は、彼女を守ることだけだったから。

 俺は、身体強化魔法を足が潰れないギリギリまで出力して、その場をグランさんに任せた。

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