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氷使いの日常  作者: おおかみ裕紀
第1章 コノート村編
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Ep.16 - わくわくキャンプ -

 殆ど景色の変わらない外を眺める。


 馬車に揺られてはや1週間。

 洗体は2日前に湖でちょっと頭を洗ったくらいで、若干フケが出ている感じがする。

 まあでも、体を洗えないってのにも慣れてきた。


 「お前ら! そろそろだぞ。」


 グランさんの威勢のいい声が聞こえると、それまで寝ていた人たちが、応じるようにまぶたを開く。

 どうやら、俺等が乗っている馬車は、目的地のすぐ近くまで来ているらしかった。


 前の方に顔を向けると、なんだかどんよりとしているような、暗い感じの森林があった。

 あそこが、グラン森林。

 暗い雰囲気が漂っていると感じるのは、魔素が他のところよりも濃いから、というのはイーファちゃんに教わったこと。


 魔素が濃いということは、それに呼応して生息する魔物の脅威も強まるということ。

 端的に言えば、超危険ゾーン。

 ただ、それはあくまで道なき道を進んだ場合に限る。

 グラン森林にはいくつかの街道が存在する。


 そんな街道には、結界を作る魔導具やら魔法陣というのがそこには設置されており、商人や馬車はそこを通るという。


 だから、正しく進めばまず死ぬことはない、そんな場所。

 


 「ただ…今回の私達の目的は…」


 「グラン森林に生息しているであろう強大な魔物を討伐すること、だよね。」


 「はい。 だから、今回は舗装されていない危険な場所を行動することになります。

  状況にもよりますけど、野宿も何日かは覚悟していかないといけないクエストです。

  イツキさんだけじゃなく、私もここまでの難易度は経験が浅いです。

  下手したら、A級の上澄み…いや、この話はやっぱりなしで。

  とにかく、私達は仲間です。

  大変なことばかりですけど、一緒に頑張りましょう、ね!」


 イーファちゃんの強い言葉を噛み締めたタイミングで、馬車の前の方に乗っていた傭兵が到着の報告を伝えてきた。

 その合図を皮切りに、傭兵がひとり、またひとりと馬車を降りて続々と森林へと向かっていく。


 最後尾だった俺らは少し遅れて、森林の様相を間近で目にする。

 明らかに、空気が違う。

 呼吸する時の感じが、重いと言うか。


 これも、魔素の濃さが影響しているんだろうか。

 不思議な感覚だ。


 「イツキさん、行きますよー!」

 

 イーファちゃんに急かされ、俺も歩みを早める。

 グラン森林の探索、スタートだ。




 ───





 グラン森林。

 コノート村を北に、馬車で1週間ほどの距離にある巨大な森林。

 その規模はとても大きく、街道を通ったとしても横断には1ヶ月もの時間を要すると言う。


 そんな巨大さからか、森林にはいろいろ生物が生息しており、各々独自の生活圏を持っている。

 例えば、エルフ族。

 森林の東側に縄張りを構えていると言う、比較的人族とは友好的な魔族。

 ちなみに、意思疎通可能な魔物を魔族って呼ぶらしい。


 エルフ族の近くには、友好的なリーフトレントという、いわゆる木の魔物も生息する。

 基本的に、攻撃しなければ無害で、安全らしい。

 たまに、道行く人に対して、自分に実った果実を落として与えるっていう話もある。

 あと、全部の木がトレントなわけではないらしい。

 過剰に魔素を吸収したやつだけで、見分けるときも色の濃いやつ、で簡単にわかるらしい。

 

 イーファちゃんの説明を受けながら、森の街道を進む。

 すでに分かれているチームもあるけど、俺達のポイントはもう少し先を行った所。

 

 それにしても、やけに肌寒い。

 陽が射さないからか、日本の秋みたいな感じだ。


 絶対半袖で来るもんじゃなかったな。

 寒すぎるんだよね。


 そんなこんなで震えていると、少し前を歩いていた2人が立ち止まった。

 どうやら、俺達が探索するポイントに到着したらしい。


 「ここからはいつ魔物が出てきてもおかしくない。

  …いつでも剣を抜けるようにしておけよ。」


 「わかりました」


 鞘の位置を右手で確認しながら、ついて行くように歩みを再開した。



 ───




 一段と闇が深くなる。

 若干の木漏れ日がなければ、夜だと感じてしまうほどの暗所だ。

 街道を抜けてから小一時間、まだ魔物は出てきていない。


 ただ…さっきから何か視線のようなものを感じる。

 おそらく、どこかに魔物が潜んでいて、そっちから俺らを見ているっていう感じだと思うけど…。

 いつ襲われるかわからない。


 俺は、剣の柄をギュッと握りながら、緊張を解けないでいた。


 こういうのって、この世界で生まれた人とかは殺気とかオーラみたいなのを感じられるんだろうか。

 よくマンガとかでは、相手の殺意を捉えて攻撃を避けたりするけど…あくまで創作だし、少なくとも俺にはわからない感覚だ。


 「イツキ、体が強張りすぎだ。

  少し落ち着け。」


 「いや…どこから襲われるかわからないじゃないですか…。」


 「安心しろ、この辺には魔物の痕跡もないし、突然攻撃される距離にはいないからさ。」



 …あ、痕跡とかを見るのも手なのか。

 確かに、魔物がたくさんいるなら足跡なり何かしらの痕跡が残ってるはず。


 足元には…特にないな。

 草がえぐれてるとか、フンが落ちてるとかもない。

 考えすぎだったのか。

 いやでも、こういう予感って経験上結構当たるんだよな…。


 頭を悩ませていると、ふと木漏れ日が消えていくのがわかった。

 途端に、森林の明るさが失われる。

 着いたのも昼が過ぎてから時間経った頃だし、いつのまにかそろそろ夜になる頃合いだったみたいだ。


 「もう夜か…仕方ない、この辺で一旦野営するか。

  イーファ、ちっと周り見といてくれ。

  イツキ、適当に木の枝を持ってきてくれ。」

 

 まだ気張ってるのか、口調の強めなグランさんに指示を受け、必要なものを探しにいく。

 どちらも森だから至る所に落ちていて、そこまで探すのに苦労はしない。

 こういうのって、昔よくやったな。

 誰が一番良質な木の枝を探せるか、みたいなのを友達とやった記憶がある。


 デカいやつより、いい感じに細くてスタイリッシュなレイピアみたいなのがいいんだよなこういうのって。

 今だったら許されないだろうけど、当時はその枝で殴り合いもしてたしな。


 そんなことを考えながら、落ちている木の枝を拾う。

 この辺りの枝はかなり太い。

 丸太とかそういうわけじゃないけど、親指と人差し首で輪っか作った時の太さくらい。

 いや、これ人によって違うけど本当にこれなんだよ。

 誰に言ってんだろ俺。


 …うん、こんなもんかな。

 数十分で抱えるほどには集められた。

 これだけあれば、足りるだろう。


 


 拾ったものを抱えて元の場所に戻ると、グランさんが地面に軽い穴を2つ掘っていた。


 「何してるんですか?」


 「ああ、これか?

  横穴掘って火炊くとよく燃えるんだよ。

  火魔法使ったら楽だけどな。」


 あ、俺これ見たことあるぞ。

 なんだっけ、キャンプとかでたまに見るやる。

 そうだ、ダコタ式焚き火だ。

 正式にはダコタファイヤーホールとか言うらしいけど。


 異世界でもこういう技術はあるんだな。

 最も、発展の仕方は違うだろうけど、なんだか不思議な感じだ。


 グランさんは手際よく穴を整えると、俺の持ってきた木の枝を小型のナイフで削っていく。

 あらかた削り終わると、削った木くずを片方の穴に軽く詰める。

 穴の3分の1くらい敷き詰めると、今度は懐から火打ち石を取り出し、擦る。

 流石に慣れているからか、手早く火をつけ、木くずが燃え始める。


 しばらくして火が強まると、今度はさっきよりも太めの木の枝を何本か投げ入れて、火力を調整する。

 次第に、火力は安定し焚き火が完成する。


 「よし、これで完了と。

  イーファが戻ってきたら。」


 お、お待ちかねのご飯か。

 キャンプ飯ってあんまり食べたことないから新鮮だな。

 こういう暗い森で食べるってのも、意外と雰囲気出そう。

 てか何も狩ったり拾ったりしてないけど、何を食べるんだろうか。

 

 と気にしていると、タイミングよくイーファちゃんが大きなオオカミのような魔物を抱えて、戻ってきた。


 「お、なかなか大物だな。

  陽が落ちたのにダークウルフを捉えられたか。」

 

 「ちょうど孤立しているのがいたおかげで、苦戦せずに獲れました!」

 

 「よし、とりあえず今日はここで一晩明かすぞ。

  とにかく飯だ。

  イツキ、風魔法で火力調整しといてくれ。」


 よっしゃ出番だ。

 ドライヤー程度の風量なら、無詠唱でも出せるようになったからな。

 最近髪乾かすのに使ってたおかげで、精密性は中々のもんになったと自負している。


 火力調整の横で、グランさんとイーファちゃんがダークウルフを解体しながら、この辺りの状況についてあーだこーだ語り合っている。

 傭兵同士でしかわからない話もあるのだろう、お互い若いのに、仕事熱心なこった。


 余っていた木の枝も放り込み、焼肉屋で行ったらちょっと焦るくらいの火力まで強める。

 これだけしっかり燃えてれば大丈夫だろ。

 

 すると早いことに、あっちも解体が終わったらしく、肉を焼くフェーズになる。

 網とかはないから細く削った木の枝に刺して、それを立てて焼く焼き魚方式だ。

 若干木くずが気になるけど、傭兵キャンプにそんな小言を話すのは御法度だろうから、これも経験だと思うことにする。


 ダークウルフって名前だけ見ると、めちゃめちゃ危険そうではあるものの、体毛が暗いから暗闇で捉えづらいというだけのオオカミでしかないらしい。

 ある程度狩りに慣れた冒険者なら、そこまで苦労せず倒せるとのこと。


 肉の色が少しずつ変わっていく。

 牛肉みたいな感じの色合いから、よく見る焼き肉って感じの茶色になる。

 香りは…思ったよりも獣臭い。

 焼いてるから細菌とかは大丈夫だろうけど、香り付けとかしてないっぽいから匂いは少し我慢だな。


 じゅうじゅうと焼かれる音をバックに、束の間を過ごす。

 しばらく見ていると、そろそろ食べ頃になってきた。


 そろそろかなーなんて見ていると、3本の焼き串をイーファちゃんが手早く取り分けてくれたので、早速手を合わせる。

 ちゃんと、この世界でもいただきますはしないとな。

 手合わせてると毎回不思議な目で見られるから、視線は気になるけど、命に感謝するのは俺のポリシーだからな、なんて。


 おそるおそる肉をひとかじり。

 うーん、運動量が多いからか、少し硬い。

 あまり刃物で筋切りをしてないからか、筋っぽいような食感がする。


 それでも、キャンプ飯が美味しいように、この空気感で食べるからどんなものでも美味しく感じる。

 やっぱり、こうやって誰かと外で食べるのはいいもんだな。

 串から肉を外しながら食べていると、イーファちゃんが食べながら不思議そうに聞いてきた。


 「イツキさんって、いつもいただきます、って言いますよね。

  何かのおまじないなんですか?」


 「俺らの生きる糧になってくれた、命に感謝するってことだよ。

  あとは、調理してくれたイーファちゃんへのありがとうの気持ち、かな。」


 「ふーん…師匠も似たようなことを言ってました。

  どこかの常識なんですかね…。」


 ん、この世界にもいただきますの精神を持つ人間がいるんだ。

 命を軽んじてるとは思わないけど、俺の世界より命の価値は下がるこの世界で、そんな精神が養われている人がいるのか。

 イーファちゃんには師匠がいるって言ってたな、もしかしてその人は日本生まれだったり…なーんて、ないか。


 この日は、簡単に夕食を済ませた後、明日の探索区域を確認し、装備品の点検をしてすぐに睡眠を取った。

 明日から、しばらく大変だ。

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