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氷使いの日常  作者: おおかみ裕紀
第1章 コノート村編
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Ep.15 - 馬車内での一幕 -


 ──あれから2週間が経ち、グラン森林の調査が本格的に始まることになった。

 結果的に、村の傭兵と冒険者だけでは足りず、近くの同じ領の村からも何人か派遣されてきたらしい。


 それほど影響力のある魔物がいる可能性を考慮して、と言うことらしいけど…グランさんは「メモリアの方の下っ端に来られても足手まといになっちゃうんじゃないの〜?」とぼやいて団長に叩かれていた。


 …俺は、この日までにグランさんから提示された討伐系クエストをいくつもこなしてきた。


 ハッキリ言って、とてつもないスパルタだった。

 何か剣の技術を新しく取り入れるわけでもなく、ただ無心に討伐をこなし、剣を振り、戦いの後にグランさんのフィードバックをもらうというものであった。


 おかげで手はボロボロだし、筋肉痛で眠れない日もあったけれど、こんな短い期間なのに、戦えば戦っていくほど自分に自信が持てるようになった。

 無傷でここまで来たわけじゃないし、一般的に見たら結構なケガも負ったけれど、魔物の動きに対応できるようになっていくと言う感覚はすごく自信になった。


 まるで、苦手な数学の応用問題の解き方が、突然のひらめきによって道筋が見えるようになった、みたいな。


 …例え話はあんまり冴えてないな。

 寝不足が続いてるし、うん。



 集められた人たちは仲良く隊列を組んで森林へ向かうのかと言うと、そうではない。

 集まった人たちの能力等を考慮してグループが作られ、グループごとに森林内の探索するポイントが設定され、そこを調査すると言う感じ。


 基本、3人1組で探索を進める。


 自由に見回るとしたら1人になるタイミングは必ずあるだろうし、もし危険度の高い魔物がいるのであれば対処が遅れたり円滑にいかないこともあるだろうから、気をつけないとな。

 だからこそ、最初から仲間はこの人たちだよと決めておくほうが、何かあっても対処はしやすいだろうしいいフォーメーションだと思う。


 作戦については、各グループ決められたポイントに異変がないか、どんな魔物がいたかをチェックするというもの。

 途中で何か異変があれば、発煙筒を使ってすぐに伝えろと言われた。

 

 森林だと空見えないんじゃないのと思ったけど、木々の間が若干空いていて、注意深く見ていれば空が見えるようなので大丈夫らしい。


 とにかく、強い魔物がいた場合は対処が難しいので、支援を要請することを強く指示された。

 そんなこんなで指示を聞いたあと、俺たちは馬車で森林へと向かうことになった。




 ───





 俺が所属するグループは、顔見知りで構成されていた。

 1人は、イーファちゃん。


 この世界に来てから1番の顔馴染みだし、なおかつ仲間としても信頼できる。

 実力は申し分ないのをこの目で見てきたし、頼る形にはなりたくないけど、心強い味方だ。


 そして、もう1人。

 あぐらをかいて自分の剣を研いでいる、金髪でイケメン、ガタイのいい男。


 「よっ、奇遇だね。」


 本名をグラン・サリテッド。

 まさかここでも副団長と関わることになるとは思わなかった。


 特訓の時にある程度打ち解けているから、最初の嫌味ったらしい部分はもう気になってはいないけど…。

 そもそも、あれは戦いに真面目に向き合う副団長だからっていうことらしいし、俺が過剰に反応しすぎたのがよくなかった。



 「グランさんは団長さんあたりと行くのかと思ってましたよ…」


 「俺もそのつもりだったんだけどねー。 イツキだと戦力的に偏りが出るって言われてね。 だから俺とイーファ2人。」


 てことはとんでもない雑魚だと思われてるってことじゃんか。

 これでも2ヶ月ずっと特訓してたんだ…ぞ…。

 ……この世界の人からしたら、素人とほぼ変わらないか…。


 「まあ、仕方ないですよね…。」


 「ああ、仕方ないね。 簡単に評価が変わってるなら、努力なんて言葉はいらないしな。 …ま、俺は十分君の努力を評価してるさ。」


 「そうですよ、イツキさん。 初めから強い人なんていないんです。 周りの評価がどんなものでも、私たちはイツキさんが必死に頑張ってるところ、見てますから。」



 にへっと笑うイーファちゃん、そして剣を研ぎながら語るように話す副団長。

 …ダメだな。日頃の疲れが出て気持ちが落ち込んでる。


 そうだよ、初めから強いやつなんて、ラノベの主人公くらいしかいない。

 強さを得るためには対価が必要なんだ。

 その対価が、俺の場合はたくさんの努力ってだけ。 今みたいに必死でやっていれば、いつかは報われるはず…。


 …ほんと、この2人には頭が上がらないや。

 応援してくれてる人のためにも、頑張らないとな。

 


 「…そう言えば、グラン森林まではどのくらいかかるんですか?」


 「大体…1週間もあれば着く。」


 1週間か…。

 え、1週間?

 け、結構かかるんだな…。

 だから荷台に食料入った箱がたくさんあったのか。


 「結構遠いんですね…。」


 「まー、馬車だしな。

  騎馬ならもう少し早くなるけどな。」


 馬車が1日に進めるのは50〜60キロメートルってどこかで見たから、1週間ならだいたい350キロとかその辺りか。

 東京から行って愛知の刈谷辺りぐらいなのかな、そう考えると車があれば楽だなとか考えてしまう。


 まあ、この世界の移動手段といったら馬車が基本だろうし、今後村を出るとなったら数ヶ月単位の移動が必要と見積もっておくべきなのかも。

 下手したら王国とかいっても、辺境の村や街から王都までは1ヶ月かかりますとかも考えた方がいいな。

 むしろ、その間の食糧管理や体調管理がネックになりそうではある。

 その分、特訓も数ヶ月単位でできるならかなり得にはなるけど。


 …てか、ここにきて大体2ヶ月か。

 来たのが夏終わりだから、今は大体11月くらいになるのかな。  

 この世界の暦がよくわからないけど、誕生日って概念もあるらしいし、何か知らないだけで数えるシステムがあるんだろう。

 日の上りで数えてるのかもしれないし。


 …そんなことを考えていると、ふとお腹がぐうっと鳴ったのに気がついた。

 

 そうだ、今日は早朝に村を出たから、まともにご飯を食べられてなかった。

 どうしよう、今備蓄された食糧に手をつけるのは流石に早すぎると思うし…ただ我慢するにもな感じだ。


 気まずくなっていると、イーファちゃんが自身の横に置いていた両手サイズの木箱を、俺とグランさんに見せるように出してきた。


 「あの、朝早かったからお腹空いてると思って…サンドイッチ作ったんです! 良かったら、イツキさんも副団長さんも食べませんか?」


 そう言って木箱を開けると、中にはキレイに詰められた、色とりどりのサンドイッチがあった。


 「美味しそう…!

  これ、もらっていいんだよね!?」


 「もちろんですっ!

  たくさん食べてくださいね!」


 箱からサンドイッチを一つだけ取り出して、口に含む。

 シャキッとした食感の後に、牛肉っぽい肉の旨みが口全体に広がる。

 噛み応えはかなりあり、若干筋っぽいのかと咀嚼を続けるととたんにとろけるような感覚。

 新感覚だこれ。

 ちょっと硬い生ラムネみたいな食感だ。

 …食レポやめよ。

 一言で美味しい、でいいや。


 「うん、美味しい!」


 「そうか? 肉の筋残ってるけどねー。」


 その瞬間、馬車に乗っていた他の人たちが一斉にグランさんの方を向いた。

 

 「あっ、残ってましたか?

  一応叩いてはおいたんですけど、急ぎだったのでちょっと残ってたかもしれません…」


 「だろーな。 ま、美味いからいいけど。」


 副団長ってのは、結構食にうるさい人間らしい。

 …いや、若干硬いなってのは俺も思ってた。

 正直者すぎるだけだこの人。


 そんなことを思いながら、俺は手持ちのサンドイッチをパクパクと食べ進めた。

 グラン森林到着まで、まだまだかかりそうだ。


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