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氷使いの日常  作者: おおかみ裕紀
第1章 コノート村編
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Ep.14 - リーフウルフ討伐 -


 若干の筋肉痛が残りつつも、ひとつ肩の荷がおりて気分を一新した次の日。

 剣やら簡単な防具を借りて、俺はグランさんの討伐クエストについてきていた。


 防具と言っても、鉄製の歩くたびにカチャカチャと音がなるような重厚なものではなく、防具界隈で言うインナーみたいな感じ…だと思う。

 革製で、量産型だろうけど、しかし粗悪ではない。RPGゲームの初期アバターがつけてる装備、こんな感じだった気がする。


 胸当てと、コルセットのような腹に巻くもの、後は膝当てと手首の方まである右手用のレザーグローブ。

 右手のはおそらく、剣を長時間握っても豆やらこすれが出ないようにだろう。


 といっても、練習中に豆なんてできるから、どちらかというと痛くないようにっていう感じだろうけど。


 あとは剣に不可欠な鞘と…俺は使っていないけど、右膝当てが太ももあたりまであって、その横にナイフケースがあるくらいか。

 こう言う革製品、使ってみたい気持ちはあったけど高いから避けてたんだよな。


 もう革製品という時点でワクワクだったり…って、それはまあ置いておいて。

 まずは討伐クエストの確認をしておこう。

 


 今回討伐する魔物は、村を少し離れたところにある湖の辺りに、リーフウルフという狼のような魔物らしい。

 コノート村から少し離れたところでは、もともと多い魔物だが、性格が臆病なのでめったに村の近くで見ることはないらしい。


 俺のよく知る狼とは違い、体毛が若干緑がかっており、いわゆる迷彩柄で気が付きにくいという。

 臆病なのでめったに近くでは見ないらしいが、最近は村のそばにも多数目撃情報があり、流れる川を辿って村の方まで来ており、生活に支障が出ているらしい。

 そりゃ、村の人からしたら狼なんて怖いよな。

 

 「やっぱり討伐クエストってことは、リーフウルフは結構強い魔物なんですか?」


 「ま、デカい個体なら倒しづらさはあるだろうね。 けど基本は群れてるし犬っころと同じような図体だから、数が多いくらいでそこまで強敵ってわけじゃないさ。」


 この人のものさしで強くないと言われても、不安は残るものの…まあ、今まで通りやれたら勝てない相手ではないってことらしい。

 特に疑う余地もないし、そうなんだろう。


 今まで特訓を頑張ってきたし、なんとかやれると信じよう。

 付け焼き刃にすぎない技術かもしれないけど、格上である副団長のグランさんを一時的に凌ぐことはできた。

 過信じゃなく、培ってきた技を否定しないようにしよう。


 話は逸れるけど…。

 …腰にかけている剣が気になって仕方がない。

 重いとかそう言う話じゃなく、真剣を持っていると言う事実が非常に心に来る。


 おもちゃの剣じゃなく、一振り当てれば簡単に相手を傷つけられる…元の世界なら持っていれば捕まるような武器を、所持しているってのは結構プレッシャーだ。


 それに、木刀で特訓してきた影響で、さっき試しに抜いた時にバランスを崩しかけた。そのせいで、手を斬りかけたし。

 それがあって、この剣に対して恐怖心が生まれてしまった。


 まあ、対象は人ではないにせよ命を奪おうとしてるんだし、やっぱりそういうプレッシャーもあるかもしれない。

 こう言う時、ラノベの主人公は怖気つかずに戦っていくようなものだけど…。


 ま、実際はそう上手くいかないってことだよな。

 生きてる場所が変わろうが、根っこの精神は元の世界で生まれたやつのモノだから、こういうことへの恐怖心は切っても切れないモノなんだろう。


 変にカッコつけず、少しずつ慣れていこう。

 魔王討伐って最終目標がある以上、焦りがちだけど適性云々に関しては、天使様なら十分理解した上で呼んでるだろうし。


 「あ、そうだ。言い忘れてたけど、リーフウルフは基本群れで行動するから、倒すべき相手を見極めるんだぞ。 無理に一気に倒そうとせず、引くことも頭に入れとけ。」


 「えっ、一気に相手する方が特訓にはなるんじゃないですか?」


 「バカか、そんなことして怪我でもしたら森林の調査までにどうなるよ?

  それに、戦い慣れてたならそう指示したけど、イツキはまだど素人。 身の丈にあった特訓をしなさいってワケ。」



 「あっ、すみません…。 確かに背伸びして焦っても危険ですよね。」


 「ソユコト。 あとそんなことで謝るなよ、俺上下関係とかお堅いこと嫌いだからさ。」



 最初は厳しい人なのかと思ってたけど、物腰も柔らかいし、第一印象ってのは結構変わるもんだな。

 それに、話しているうちに緊張も少しほぐれてきた。

 


 「お、そろそろ見えてきたぞ。 あのちょっと草が高いところ、あの辺が今回の目的地だぞ。」


 指差しされたところを見ると、少しだけ高めの草が生えており、その奥には大きい湖があった。

 目立つようにリーフウルフがいると思ったが、意外にもぱっと見ではわからないほど隠れているらしい。


 「あれ、どこにいるんですかね…」


 「夜行性だから昼間は擬態してるんだ。 もっと近付けば、襲ってくるぞ。 音を立てずに近付くぞ。」


 どうやら、音を立てるとまずいらしい。

 少しでも大きな音を出した瞬間、リーフウルフはビビってこっちに飛びかかってくるらしい。しかも集団で。


 「けど…どうやって倒すのが正解なんですか?」


 「何匹いるかによるけど…不意打ちで何匹か倒して後は接近戦がよくある倒し方だな。」


 「じゃ、不意打ちで全部倒せるとかはないワケですね…」


 「そんな楽だったら討伐クエストになんて出ないって。 ま、多少の怪我はイーファが治せるんだし気負いすぎずやってけばいいさ。」


 …やっぱり治癒魔法を使えるイーファちゃんって、相当すごいのでは。

 思っている以上の実力者な気がしてならない。


 …って、今は目の前の敵に集中しないと。



 俺は、言われた通りゆっくりと草むらへと近づいていく。

 目測で50メートルくらいだろうか、リーフウルフはこの距離の音も敏感に聞き取れるらしいので、最大限警戒しながら進んでいく。


 一歩一歩、母親の目を掻い潜って遊びにいく子供のように、じっくりと歩みを進めていく。


 「そろそろ剣を抜いておけ。 突然飛び出してくるかもしれない。」


 「わ、わかりました」


 歩きながら剣を抜こうとしたものの、何かに引っかかって抜けず焦ってしまった。

 鞘のどこかに引っかかり、鉄の擦れる音やカチカチという金属音が響き渡る。


 「おい、落ち着け! ちゃんと鞘を下げてから抜くんだよこういうのは!」


 言われた通り鞘の腰を少し上に上げて口を下げると、簡単に抜くことができた。


 「すみっ…ありがとうございます…。」


 「戦う前に気力削りすぎるなよ…てか、ホントに戦ったことないんだね。

  って、そんなことより。 リーフウルフの影が見えてきたぞ。」



 草むらの影をよく見ると、確かに狼らしき姿の影が確認できた。

 リーフウルフの群れだ──数は5か6匹程度で、思っていたよりも少ない…とも言えない。むしろ多い。


 「気付かれてはいないみたいだな…そうだ、イツキ。 俺に撃ってきたあの魔法使ってみなよ。 この距離なら狙えるだろ。」



 まあ、確かに狙えなくもないけど…。

 前みたいに2つの石をぶつけるなんて芸当は無理だな…。


 いや、この距離なら1発撃てば小さい個体ぐらいは気絶させられるかな。

 よし、やろう。



 右手に持っていた剣を地面に浅く刺して立たせると、俺は草の中にある小石をいくつか拾って横にかけていたレザーケースにしまっておく。


 ひとつだけ左手で持って、昨日撃った時のように構え直す。

 昨日は多少焦りながら魔法を使ったのと始めてで相手も相手だったから、威力をカサ増しするために2発同時撃ちをしたけど、この状況なら詠唱を挟めば正確に打てるはず。


 湿った右手を丸めて息を吹き込みながら、狙いを定める。詠唱を挟んでから、思い切り小石を弾き飛ばした。

 狙い撃ちした弾はストレートで飛んでいき、草むらの影に潜む1匹に命中したらしい。


 キャインと子犬の鳴くような声が一瞬聞こえたかと思うと、草がガサガサと広範囲に音を鳴らして騒がしくなる。

 グランさんから「行け」の合図を貰い、急いで剣を拾って走り抜ける。


 「草の陰をよく見ろ! 出てくるぞ!」


 警告を聞いた瞬間、草がブワッと揺れたと思えばリーフウルフがこちらへと走ってきていた。

 落ち着け、大きさは飼い犬程度だし、特別速くもない。


 見た目は…思ったより抵抗感のない見た目だ──牙が発達してるからか、魔物って感じだから斬るのに躊躇いはほぼない。


 目の前に来ようとしていたリーフウルフ1匹をよく狙い、飛び込んできた瞬間、剣で薙ぎ払った。

 リーフウルフは目を丸くすると、避けようとしたか身をよじらせるような素振りを見せた。

 そのせいか、振り抜いたつもりが、腰の入れ方が悪かったのか刃が通りきらず、首あたりから斬り込んだ剣は体の中心あたりで止まってしまった。


 増援はまだ来てないことを確認し、動きの鈍ったリーフウルフを地面に叩きつけ、地面をまな板だと言うように押し込んでなんとか両断した。


 「うぇ…断面がグロい…」


 思い返さずにはいられない、肉を切る時の嫌な感触が手に残る。

 気持ち悪さを抱えつつも、まだ後ろから仲間が見えていたので、再度剣を構え直す。


 今度は2匹同時に来た。

 落ち着け、今1匹対処できたってことは、確実に俺は成長している。


 それでも、無理に2匹同時に戦うのは得策じゃない。

 俺は、少し距離を取りながら、風魔法ウィンドの詠唱を始めた。


 リーフウルフは仲間を殺された怒りに任せてこちらに走ってくる。

 この魔物の足は特段早くもないので、落ち着いて詠唱を終えるまで距離を取る。


 「雄大な自然の源より、我に風の力を与え給え…ウィンド!!」


 手のひらを片方のリーフウルフに押し付けるような形で魔法を発動させる。

 詠唱中、小さく威力を高くしようとイメージすることで、いい感じに片方だけ吹っ飛ばすことができた。


 もう片方はさっきと同じ要領で斬り倒す。

 力を入れすぎて、さっきみたいに途中で止まってしまないように脱力感を残しつつ腰を入れて斬り込む。


 「うおおっ…!!」


 スパリと音を立てるように振り込んだ剣は、そのリーフウルフを一刀両断し、返り血を飛び散らせた。

 

 もう片方を倒そうと少し離れを見ると、魔法を撃ったからかすでに気絶していた。

 今回は討伐がメインだから、少し嫌な気分にはなるけど剣を突き刺して頭を潰しておく。

 その瞬間、脂身だらけの肉を噛んだときのような、ぐにゃりとしつつも芯のある感触が刺した剣を伝って感じ取れた。


 …気分は最悪だ。

 こんなに血を見たのは、死ぬ直前以来だな。

 いや、アンデッドの時もいくらか見てはいるけど。

 しかも、返り血も浴びてるし、剣にはべっとり血が付いてるしで、心穏やかではいられない。


 「お疲れ、これで全部みたいだな。 この辺りには3匹しかいなかったみたいだし。」


 「な、なんとかやれました…」


 「ま、及第点てとこだろ。 …とは言っても、魔法の使い方は良かったぜ。 それに予想外の出来事への対処の仕方も悪くない。

 落ち着いてリーフウルフと向き合ってたってのは高評価だな」



 「思ったより上手く立ち回れてたってことですかね…。」


 「ま、そうとも言えるね。ここからどこまで伸ばせるかよ、2週間なんてあっという間だしな。」


 含みのある感じだけど、激励と受け取っておこう。

 

 …調査が始まる頃には、俺はここに来て2ヶ月くらいになるはず。

 少しは、成長できているだろうか。


 剣の特訓、魔法、そして新しい人たち。

 がむしゃらに頑張っているけど、いつも周りとの差を感じてばかりだ。

 ルーキーイヤーなんだから、チートでもない限り好感触なことはないだろうけれど、実際のところ気持ち的には焦りがある。


 スタートがどこであれ、差があると言う事実は結構怖いものだ。

 それに、技術を習ったとて新感覚な物事ばかりだから俺が受け取りきれないことも多い。

 塵も積もれば山となる…とはよく言うけど、今の俺は少ない塵をカサ増ししてよく見せようとしてるだけだし。

 本当は、生まれてからみんながやってきたように、俺も長い時間をかけなければいけないけど。


 ナイーブな気持ちに落ちていると、グランさんが懐から出した、布切れのようなものを投げ渡してきた。


 「とりあえず、刀身はしっかり拭っとけよ。 あと、帰ったら軽く研いでおくことな。 放置してると錆びんだよ、剣って。」


 …ま、俺には強い味方がいるし。

 この人たちに教わっていれば、遅くとも着実に力をつけていけるだろう。


 …残りの2週間弱、全力で行こう。

 彼女のためにも。

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