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氷使いの日常  作者: おおかみ裕紀
第1章 コノート村編
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Ep.13 - 一矢報いた小石 -


 「作戦会議は済んだか?」


 「お待たせしてすみません、副団長さん。 …もう一回、仕切り直しをお願いできませんか?」


 「…ま、いいよ。 もう一つ、見ておきたいこともあるし。」



 作戦会議の後、仕切り直してスタートすることになった。

 イーファちゃんは打ち合いの途中にも関わらず、模擬戦を止めてしまったことに頭を下げていた。


 実質、止めたのは俺なんだからと、申し訳ない気持ちになった。

 …半分、君を信用していないと言ったようなことをしてしまったのに、イーファちゃんは落ち着いて俺に作戦を伝えてくれた。


 場数が違う、というか懐が深いと言うか。

 …俺も、甘えてはいられない。


 教わったことの一つくらい、実践できるようになってないと顔向け出来ないな。




 再度お互いの距離を調整して、イーファちゃんのスタートの合図を待つ形になる。

 今度は、無茶しない。


 相手の動きから目を逸らさず、そして自分の動きを止めない。

 常に身体を動かし続ける。

 教わったことの一つだ。


 「それじゃあ…はじめっ!!」




 –––






 通る声の合図が響き渡ったと同時に、副団長は駆け抜けるようなスピードでこちらへと詰めてきた。

 速い、けどコバっさんの動きと比べてもまだ捉えられるスピード…。


 「はやっ…!?」

 

 とは行かず、気付けばもう目の前で構える副団長の姿があった。

 イーファちゃんと戦った時と同じシチュエーションだ。


 俺は木刀を横に、そして左足を大きく下げ、受け流すような姿勢を取った。

 あの時無意識にやった、相手の剣を滑らせるようにして攻撃を受け流すあの動き。


 コバっさんとの特訓で、一切攻撃に転じられなかった俺が、唯一通用するかもしれないと言われた無意識の技術。

 副団長の一撃は誰よりも重い、けど俺もグータラしてこの世界で過ごしてるわけじゃないんだ…頑張ればなんとか行ける範囲にはなっているはず!


 力が一番来るタイミングで流す。

 俺は意識を集中させた。



 「ぐっ…!」


 今までの誰よりも、格段に重い。

 単純なパワー、そして細かくわからないが力の伝え方がコバっさんやイーファちゃんとは明らかに違う。


 若干、足が地面を削って後ろに下がる。

 受け切る前に、押し切られそうな勢い。


 どうする、一旦ここから抜けるにも避けるような余裕が一切ない。

 一瞬の猶予ができても、副団長なら次の一手がすぐに来るはず。


 何か考え事ができる余裕はない…これ以上は腕が折れかねない。

 ひと呼吸おかなきゃダメだ、多少の賭けでもいい、なにかないか…?


 


 「足元震えてるぞ、その程度か?」


 「足元…あっ!!」



 俺は踏みしめていた脚を前側に滑らせるようにして、意図的に体勢を崩した。

 その一瞬、副団長の体勢が若干ではあるけど崩れた。


 若干崩れた足元に合わせるように、俺は右足で蹴り込もうと足を振り抜く。

 しかし流石の副団長、崩されながらもしっかり避けられてしまい、即座に体勢を整えて距離を取られた。

 だけど、好都合。


 わずかな隙を狙い、俺は最速で距離を詰めて動く。

 そして至近距離で真正面から打ち合う。


 一本取ろうとするなら、この雑な打ち合いは無謀としか言えない取り組みに見えるはず。

 でもこれは時間稼ぎだ。

 あと数秒、詠唱の時間を稼ぎたい。


 …もう一度攻撃を受け流してと思ったけど、今の攻撃を受けて分かった。今の俺じゃまだ太刀打ちできない。


 それなら、多少打ち合いの意向とは逸れるかもしれないけど、魔法の練習中に見つけた俺の隠し技…的なものを使ってみる。



 有効打かはわからない、けど格上の相手である副団長には、多角的に攻めないと進展がなく終わるだろうし、何より一言でもあっと言わせないとこの戦いは終わらない気がする。


 無理やり接近してるのは、木刀を打ち合う音で詠唱中の声をかき消すため。

 覚えたてで焦ると忘れるから、絶対に焦らないように落ち着いて頭に浮かべながら口に出す。


 「雄大な自然の源より、我に風の力を与え給え…」


 途中まで詠唱したところで、思い切り後ろにステップをして距離を取る。

 もちろん副団長は追ってくるはず、それを少しでも阻止するために…。


 「木刀を…投げる!!」


 投げた木刀はわずかに逸れつつもほぼ副団長を捉えたが、軽々と弾かれた。



 「木刀投げるなんて、降参でも…」


 言い終わる前に、俺はさっき体勢を崩した時に拾ったいくつかの石を左の指で摘んで、その石を捉えるように右中指で弾き出すような形をとった。


 今度は腕に身体強化魔法を集中させた。

 そう、俺の隠し技は単純。石をめっちゃ強く弾いて、不意打ちするという遠距離攻撃。

 でも、それだけじゃこの距離で飛ばしてもかすり傷を作れるかギリギリの威力になる。


 その威力をカバーするために、風魔法のウィンドを使う。

 強化されたデコピンに風圧をプラスして、擬似ライフルというワケ。


 詠唱をしっかりして、より魔法の精密性を高めて指のあたりに一瞬だけ風を生み出し、石を射出する。

 名付けて、風弾…若干厨二くさい気もするケド。

 

 中指に思い切り力を込めて、最強のデコピンをイメージしながら勢いよく石を放った。

 勢いよく射出された小石は、若干垂れつつも、副団長の頬あたりを襲おうとした。

 

 「その速さじゃ簡単にいなせるぞ!」



 副団長は木刀で、小石を軽く弾き返そうとした。

 しかし、小石は軌道に合わせて置くようにした木刀をかすめることなく、瞬きしたその時にはすでに副団長の左頬をわずかではあるが切っていた。



 そらし撃ちは、成功した。




 副団長はぽかんとしたように動きを止めた。

 左手で頬を拭い、自分が小石を捉えきれずにくらっていたことを、拭い取った血液で認識すると、少し驚いたしたように俺に話しかけてきた。



 「木刀で一矢報いてきたわけじゃないけど…面白い。 身体強化魔法をセーブしながら使っていたら、この威力にはならない。一体どうやって?」



 「風魔法を、同時に使いました。 それと…」


 「…2つの石を、若干タイミングをずらして打ち込んだんです。 1つ目の石の後押しをするように、2つ目の石をぶつけて速度を上げた。」



 「なるほどね。 すごい精度だな…素直に驚いたよ。」



 「射撃には、ちょっとばかし自信があったもんで。」 



 …ライフル射撃をしておいてよかった。

 大学生になって、なんか変化球って感じのサークルか部活に入ろうとして、ライフル射撃部を選んだあの時の自分を褒めてやりたい。


 …いや、そんなに関係ないかも。

 だってデコピン射撃とライフル仕様の射撃じゃ全然違うしな…なんか無双できるかなと思ったけど、まぐれかもしれない。


 妄想をしていると、副団長が木刀を肩に掛けながらこちらに近づいてきた。



 「…剣の腕はまだまだだな。 それに、腰の引け方も気になる。 今の状態でウチの傭兵と打ち合いして、勝てるとも思わない。 だけども…」


 「…悪いとは思わない。 それ相応の覚悟は、動きに現れていた。 付け焼き刃にしては十分及第点。」


 「副団長さん、ってことは…」



 「ああ、認めてやるさ。 全体的に見たら予想以上だったからね。」


 「ただ…それはあくまで全体的に、ってだけだ。 剣の腕や魔法の使い方を見ていると、節々に良いところはあるけど…経験値不足が目立つ。 」


 「…あと2週間弱でグラン森林の調査が始まる。 高い率でデカい魔物はいるだろうと、シュルクさんは言ってる。 イツキ、君はまだ強くなる必要がある。」



 「もちろん…わかってます。」


 「アンデット程度の大きさだけじゃない。 チップマンク…ま、自分の図体の数倍はあるやつの相手をする可能性も、否定できない。」


 「…更に戦闘経験を積む必要があるってことでしょうか。」



 「端的に言えばそう。 デカいやつは通る攻撃も通らないことが多いからね。 そういう感覚を、身につけておく必要があるってことさ。もちろん、剣と魔法の稽古は継続する前提だけどな。」


 つまり、ギルドに貼ってあったような討伐クエストをやって経験を積めっていうことか。

 確かに、仮想敵として比較的戦いやすい魔物の討伐をして、経験を積んでいくというのは合理的だ。

 それに、生々しいことを言うならお金が欲しい。自由に使えるお金ってやっぱり欲しいよ、買い食いできないし。


 …あれ、でも冒険者ランク的には、討伐クエストってB以上だよな。

 確かここだと討伐は傭兵団がやってるから、ほとんど張り出されないって聞いたはず。

 それとも、見落としてただけでC以下のクエストがあったりするのかな?


 「討伐クエストって、だいたいB以上ですよね? 俺のランク的にも受けられないし、なによりここの討伐クエストは傭兵の方がやっていると聞きましたけど…。」


 「あ、そうか。 じゃ、今度俺が出向く討伐依頼、手伝ってもらう。 それでどうだい?」



 なるほど、支援係兼戦闘訓練ってことか。

 副団長がいる前で訓練するなら、小言がうるさそうだけど確実に力はつきそうだな。

 断る理由はないだろ。 …ま、報酬金の件は少しばかし我慢することにしよう。


 「じゃあ、それで、お願いします。 副団長さん。」


 「堅苦しいな、傭兵じゃないんだし軽く行こうよ。 君、何歳?」


 「20歳ですけど…」


 「俺21歳。 なんだ、年齢ほとんど変わらないならタメで行こうよ。」



 流石に役職が上の人に対してタメ口はちょっとな。

 あっちがよくても、俺がなんとなく申し訳ない。

 そういう価値観なのか、といっても元の世界でもこういう人はいるけど。


 結局、タメ口は流石にと断り、せめて名前でならということになった。



 「グラン・サリテッド。 ま、気軽にグランさんとでも呼んでくれな。」


 「よろしくお願いします、グランさん。」



 とにかく、あと2週間の間はさらなる特訓に勤しむ。

 その過程で、今度は剣技に関しては申し分ない実力者の、副団長の付き添いで討伐クエストを手伝う。


 先生としては、これ以上ないほど心強い存在だ。

 あとは、とにかく実践経験重視で行くべきだ。


 この毒舌陽キャみたいな男、副団長ことグランとの打ち合いに勝った…とは言えないものの、なんとか最初の壁を乗り越えることが出来た。

 次の壁は、ちゃんとした魔物…。


 若干の不安はありつつも、頑張ろうと思った。

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