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氷使いの日常  作者: おおかみ裕紀
第1章 コノート村編
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Ep.10- イヤミなやつ -


 突然出てきた人に、何の脈略もなくけなされたら、誰だって怒らずにはいられないと思う。

 かく言う俺も、少しイラッときてしまい、流石に言い返そうと向き直す。


 「なんだよ、いきなりイラついたような目つきでさ。」


 「流石に初対面で、その言い草はないんじゃないですか?」



 そう睨むと、その男はきょとんとした顔でこちらを見つめる。

 まるで、自分が悪いのか? と問わんばかりの顔つきで。


 なんとも、話が通じていない気がする。

 俺がもう一言くらい言ってやろうと口を開こうとすると、慌ててイーファちゃんが間に入ってきて仲裁してきた。


 「ストーップ! この人は傭兵の新入りじゃないんです!」

 

 イーファちゃんの言葉を聞くと、途端にその男は驚き、こちらを再度見てくる。



 「ほーう…てことは誰?」


 「えーと、実は…」



 なぜ俺がここで特訓しているのか云々を、イーファちゃんはたどたどしく話し始めた。

 彼女の過去自体は男も知っていたようで、それ含めて話を進めていた。

 

 「あぁ、団長の言ってた探索の話ね。それで君が助っ人みたいな感じで入ると。」


 「まあ、大体そんな感じです。」


 「話はわかったけどさ…君、戦えんの?」


 「…魔法はウィンドが少し使えるくらいで、剣は…あんまり。」



 そう話すと、男は深いため息をついて、やれやれと言わんばかりの態度でこう言った。


 「あのさ…いや、ハッキリ言ってやるよ。」


 「参加の動機が人を助けたーいっていう、お情けだって? 君、自殺願望でもあんのか?」


 「ちょ、副団長さん…!」


 「君が戦闘経験に乏しいのは知ったこっちゃないけど、アンデッド1匹でやっとな実力でよく力になりたいとか。たいそうなことが言えたもんだね。そうは思わないかい?」


 

 イーファちゃんが何か言ってるとか、この男が傭兵団の副団長だったとか、そんな話は耳に入っていなかった。

 ただただ、何も言い返せなかった。


 自分は無力だと、反芻するように。


 よくよく考えれば、俺がなにかすると言って戦力に数えられるほど、強い人間じゃない。

 たとえ、1ヶ月という期間があっても。

 勉強のように、一夜漬けでなんとかなるような世界じゃない。


 この世界は、自分の身を守るために力を持つ。

 ほとんどの人が戦わなければいけない、そんな場所で、俺みたいな外の人間が1ヶ月頑張って戦うぜなんて、そんなの本気でやってる人からしたらたわけと言われてもおかしくないんだ。

 俺は、間違っていたんだろうか。


 「確かに…イツキさんは今のままじゃ戦えないし、副団長さんがそういうのも無理はないと思います。」


 ふと後ろから、イーファちゃんがポツポツと話し出す。

 その声は、少し震えている気がした。


 「それでも…イツキさんは自分の弱さを受け入れたうえで頑張っているんです。普通なら、素人が危険なクエストに身を乗り出すなんて、怖くてできないはずなのに。」


 「でも、私の話を聞いたイツキさんは、二つ返事で力になってくれるって言ってくれました。…イツキさんなりに、今は頑張っているんです。朝早く起きて、夜中までずっと自主練しているのも、私は知ってます。」


 「だからこそ、私は命の恩人であるイツキさんの言葉を信じているんです。だから…いくら副団長さんでも、これ以上悪く言うのはやめてくれませんか。」



 淡々と、そして力強く。

 こんなに考えてくれていたなんて、思っていなかった。

 

 無謀な俺の挑戦を、ダメ元で…なんて、そう思っているんじゃないかって。

 でも、俺の言葉をイーファちゃんは彼女なりに信じていた。


 そうだよ、俺は人を助けるために戦うことを選んだんだ。

 …ここで、一言二言小言を言われたくらいで、くじけていたらイーファちゃんに顔向けできないじゃないか。


 ひとつくらい、言えないとダメだ。



 「…イーファちゃんに言ったんです。絶対に力になるって。 …少しでも、力になるためには、死ぬ気でやります。」


 すると、副団長の顔色が少し変わった気がした。

 若干の、驚きを見せながら。


 

 「…いい心がけではあるけど、実際問題どうやって力をつけるんだ?」


 「魔法は、私が教えられます。…剣も、ある程度は。」


 「魔法使いのイーファが? ダメだな。腰が引けたようなスタイルになるだろうし。」


 「それでも…!」


 言葉を紡ごうとするイーファちゃんを遮り、副団長はオレに目を向けて言葉を放つ。



 「具体的な目標が足りないな。得体の知れない相手だ、特訓内容の明確なプランを持つべきだ。」


 「君が生半可な気持ちじゃないってのは理解したよ。…今度は、言葉だけじゃなくて行動で示してみろ。」


 「2週間やる。2週間経ったら俺と一騎打ちで戦え。君が勝てば、名実共に認める。けど負ければ…その程度の男だと、自らが示すことになる。」



 副団長は、俺に条件を示した。

 要は、一騎打ちで勝てば言葉だけでなく実力も認めるっていうことらしい。


 …難題だ。

 この人の実力がどのくらいかわからない。でももし、団長のシュルクさん並み、はたまたそれ以上あるとしたら。

 みっともなく、負けを晒すだけになるかもしれない。



 でも、今みたいに悩んでばかりで、前に進まずに逃げて、何も成長できずにいたら…それこそ、彼女に顔向けができなくなる。

 この世界に来た以上、魔王を倒すという命題を与えられたのなら、こんな試練は簡単に乗り越えられないといけない。


 引け腰で血を流さずにみっともなく死ぬくらいなら、負け試合上等で醜く争う、そんな気持ちでいかないと。


 俺は喉の奥に引っかかっていた唾をごくりと飲み込み、副団長の目を直視して伝える。



 「もちろん…受けて立ちますよ。俺は乗り越える。あなたが何も言えなくなるくらい、強くなってみせます。」


 「…悪くない顔だ。その顔が曇らないことを期待しとくよ。」



 そう言うと、副団長はさっさと荷物を持って動こうとする。


 「あ、そうだ。イーファも2週間休みってことで。特訓見てやるんだろ?」


 「ま、お互い得るものはあるだろ。せいぜい、がんばるこったな。」



 そう告げて、副団長は颯爽とどこかへ行ってしまった。

 

 そうして、突然取り付けられた、一騎打ちという難題。

 今の俺には厳しい条件だけど、この壁を乗り越えられなければこの先もずっと転んでばかりになる。

 むしろ、目に見える目標ができたんだ、モチベーションは十分。


 …でも、これで剣の特訓を優先しなければいけなくなった。

 副団長と戦うということは、現役の剣士、しかも組織のトップと素人の俺が打ち合わないといけないということ…。


 承諾したのは俺だけど、なんともこう…壁がでかいなあ…。



 「…ああ見えて、悪い人じゃないんです。 その…口は悪いですけど。」


 「まあ、あの人なりの激励…てことだよね。」


 「はい…。……とにかく、あの人と戦うなら魔法よりも剣術の特訓が最優先になります。…でも、私はあくまで魔法使いなので、副団長に匹敵するような剣の腕はありません。」


 「てことは、完全に独学になるってことね…。」


 「ごめんなさい、力不足で…。 傭兵さんに頼めるならとも思ったんですけど、今はその…ピリピリしてますし。」


 「今はみんな大変だろうし、仕方ないよ。」


 仕方ない。

 この時期に、人に教えるほどの余裕がある手はほとんどいないだろう。

 それに、本来なら傭兵の一人であるイーファちゃんの手は煩わせちゃいけないものだ。

 だから、ご厚意を受けている側の俺が、なにか意見を言うのはお門違いだろう。

 

 …今回は実際の人間を相手にしないといけない。

 トレーニングは継続するしかないけど、剣の打ち合いは誰かにお願いしたいところだけど…。


 …待てよ、俺はひとり強そうな剣士を見たことがある。



 この人なら…なにかいい知恵をくれるかも知れない。

 …いや、1回か2回話したきりの間柄で、頼み事をするのも気が引けるか…


 …いや、そんなことを考えている余裕はないよな。

 中途半端なプライドは捨てて、土下座する勢いで頼み込もう。

 この世界なら、特訓お願いしますっていうのは、珍しいことではない…と信じておこう。


 イーファちゃんには一個思いついたことがあるとだけ言って、明日の午前中に時間をもらうことにし、俺は明日頼みに行くことにした。


 その後、残っていた特訓をこなし、一日を終えた。

 その日は、身体強化のコントロール特訓で終わった。



 −−−






 次の日、俺は朝早くからギルドに併設されている酒場へと足を運んでいた。

 目的はただ一つ、ここに来るであろう人物を待ち伏せるため。


 アンパンと牛乳はないけど、俺はそういったドラマのシーンを再現している気分になって、ちょっとワクワクしていた



 …あの人に良い答えをもらえるかはわからない。

 けど、今の俺が頼れるのはこの人しかいない。

 …実力云々、気になるところはあるけど、そんな心配をしている時間はない。

 

 最も、あの人は冒険者だ。

 調査にも参加すると言っていたし、交友を深めておくって意味でも話しておくべきだろう。

 そんなことを考えていると、見慣れたガタイの男が入ってくるのが見えた。

 

 あっちも俺のことに気がついたようで、話しかけきた。



 「お、イツキじゃないか! 元気そうで何よりだよ。今日はなんかあったのか?」


 「あ、コバッさん。今日はちょっとお願いがあって…」


 「お、なんだなんだ。 オレにできることなら、手伝うぜ。」



 それから、副団長に一騎打ちを取り付けられたこと、だから剣の特訓をお願いしたいことを伝えた。

 コバッさんは最初悩んだ様子だったが、俺の顔を見るとまあいいか、といった感じで了承してもらえた。


 あっちも色々と予定があるので、手を煩わせない程度にお願いすることにした。

 毎日だいたい夕方辺りに、見てもらえるようになった。

 これで練習プランはだいたい決まったかな。


 午前中はイーファちゃんと魔法関係の特訓、午後はコバッさんと剣の特訓。

 あと2週間弱、どこまで成長できるだろうか。


 不安になりながらも、俺は頑張ろうと覚悟した。

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