第六十三章「夜明けの光に包まれる二人」
八千代市の朝は、冬の冷たい空気を残しながらも、夜明けの光がゆっくりと街を照らし始めていた。八千代台公園の並木道には霜が薄く降り、歩くたびに足元から小さな音が響く。圭介は、公園のベンチに座り、ゆっくりと空を見上げた。遠くから軽やかな足音が近づいてくる。
「待たせちゃった?」
「いや、俺も今来たところだ」
「またそれ?」
理乃はくすっと笑いながら、隣に腰を下ろした。二人はしばらく何も言わず、公園の静けさの中に身を委ねた。
「ねぇ、圭介」
「ん?」
「夜明けって、なんでこんなに特別な感じがするんだろう?」
圭介は少し考えた後、静かに答えた。
「新しい一日が始まるからじゃないか?」
「新しい一日?」
「ああ。昨日までとは違う、新しい何かが待ってる気がする」
理乃は驚いたように彼を見つめ、それからふっと微笑んだ。
「それ、ちょっといい考え方だね」
「そうか?」
「うん、私もね、夜明けを迎えると、不思議と前向きな気持ちになれるんだ」
圭介は静かに彼女を見つめた。
「それなら、これからも夜明けの時間を大切にすればいい」
「……そうだね」
二人はしばらく無言で、公園の広場に広がる朝の光を眺めた。冷たい空気の中にも、どこか温かなものが感じられた。
「ねぇ、また夜明けの時間を一緒に過ごそうよ」
「……ああ」
——夜明けの光に包まれる二人。
それは、新しい一日を迎えるたびに、そっと心を照らす希望だった。
(第六十三章 完)