第五十一章「巡る季節の中で」
和光市の空は、冬の澄んだ青が広がっていた。和光樹林公園の並木道は静かで、わずかに枯葉が風に舞い、足元でカサリと音を立てる。陽翔はベンチに腰掛け、冷たい空気を吸い込んだ。遠くの遊歩道から、軽やかな足音が近づいてくる。
「待たせちゃった?」
「いや、ちょうど来たところだ」
「またそれ?」
心愛はくすっと笑いながら隣に腰を下ろし、マフラーをぎゅっと握る。
「冬って、なんだか特別な感じがするね」
「どういう意味だ?」
「空気が澄んでるからかな。景色がいつもよりはっきり見える気がするんだ」
陽翔は少し考えた後、ゆっくりと答えた。
「確かにな。でも、冬が終わればまた春が来る」
「巡る季節って、不思議だよね。変わるのに、どこか変わらないものもある」
心愛は遠くの空を見上げ、静かに息を吐いた。
「私ね、昔は変化が苦手だったんだ」
「今は?」
「少しだけ、受け入れられるようになったかも」
陽翔は彼女の横顔を見つめ、静かに頷いた。
「それなら、春が来るのも悪くないな」
心愛は驚いたように目を丸くした後、ふっと微笑んだ。
「うん、そうかもね」
二人はしばらく黙って、公園の静寂に耳を澄ませていた。
「ねぇ、またここに来ようよ」
「……ああ」
——巡る季節の中で。
それは、変わりゆくものと、変わらないものを抱えながら歩む時間だった。
(第五十一章 完)