表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/205

第四十九章「風が運ぶ約束」

 八潮市の冬空は澄み渡り、冷たい風が街を吹き抜けていた。八潮産業文化センターの前で翔成は、ポケットに手を突っ込みながら静かに空を見上げた。雲一つない青空に、風が何かを運んでいくように感じる。遠くから軽やかな足音が近づき、つむぎがマフラーを巻き直しながら駆け寄ってきた。

「待たせちゃった?」

「いや、ちょうど来たところだ」

「それ、絶対ウソでしょ?」

「……まぁな」

 つむぎはくすっと笑いながら、翔成の隣に並んだ。二人はしばらく何も言わず、風に乗って流れてくる街の音を聞いていた。

「ねぇ、翔成」

「ん?」

「風って、誰かの気持ちを運んでくることがあると思う?」

 翔成は少し考えた後、静かに答えた。

「あるかもしれないな」

「たとえば?」

「昔交わした約束とか、忘れかけていた想いとか……ふとした瞬間に思い出すことがあるだろ」

 つむぎは驚いたように彼を見つめ、それからふっと微笑んだ。

「そういうの、素敵だね」

 彼女は風に吹かれながら、小さく息を吐いた。

「私もね、昔、誰かと交わした約束を時々思い出すんだ」

「どんな約束だ?」

「……いつかまた、この場所で会おうって」

 翔成はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。

「それなら、今叶ってるんじゃないか?」

 つむぎは目を丸くした後、微笑んだ。

「そうかもね」

 二人はしばらく無言で、冬の風が運ぶ音を聞いていた。

「ねぇ、またここに来ようよ」

「……ああ」

 ——風が運ぶ約束。

 それは、時を超えても消えることなく、そっと心に残り続けるものだった。

(第四十九章 完)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ