表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/205

第四十八章「光と影の狭間で」

 草加市の冬空は、どこまでも透き通っていた。草加松原の遊歩道には霜が薄く降り、歩くたびに足元でサクサクと小さな音が響く。啓太は、川沿いのベンチに腰を下ろし、ゆっくりと息を吐いた。冷たい空気が肺に染みるような感覚が心地よかった。遠くで人の気配がして、振り向くと、莉桜がコートの襟を押さえながら近づいてきた。

「待たせちゃった?」

「いや、俺も今来たところだ」

「それ、絶対ウソでしょ?」

「……まぁな」

 莉桜はくすっと笑いながら、隣に座った。二人の間に沈黙が流れたが、それは気まずさではなく、心地よいものだった。ゆっくりと流れる川の水が、淡く朝日に照らされている。

「ねぇ、啓太」

「ん?」

「光と影って、どっちが本当の自分だと思う?」

 啓太は少し考えた後、静かに答えた。

「どっちもじゃないか?」

「そうかな?」

「光がなければ影はできないし、影があるから光がわかる」

 莉桜は驚いたように彼を見つめ、それからふっと微笑んだ。

「そういう考え方、好きかも」

 彼女は川の流れを見つめながら、小さく息を吐いた。

「私ね、時々、自分がどっち側にいるのかわからなくなることがあるんだ」

「誰でもそうだろ」

「啓太も?」

「もちろん」

 莉桜は少しだけ目を丸くしたが、やがて柔らかく笑った。

「そっか、それならちょっと安心する」

 冬の冷たい風が吹き抜け、二人の間に静かな空気が流れた。でも、その静寂の中に、確かに何かが存在していた。

「ねぇ、またここに来ようよ」

「……ああ」

 ——光と影の狭間で。

 それは、どちらかではなく、どちらも大切にしながら歩いていくものだった。

(第四十八章 完)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ