第四十七章「夜明けに滲む想い」
上尾市の夜は、静かに深まっていた。駅前の通りにはまだ温かい光が灯り、行き交う人々の足音が遠く響く。蒼輝は、上尾丸山公園の展望台に立ち、冷たい風に襟を立てながら遠くの街並みを眺めていた。街の光が静かに滲んで、どこか儚く見える。そんな中、後ろから足音が近づき、優月がゆっくりと隣に並んだ。
「待たせちゃった?」
「いや、ちょうど来たところだ」
「また、それ?」
「……まぁな」
優月はくすっと笑いながら、手をポケットに入れた。
「寒いね。でも、こういう空気、嫌いじゃないかも」
蒼輝は頷きながら、視線を遠くの空に向けた。
「ねぇ、蒼輝」
「ん?」
「夜が明ける瞬間って、なんだか切ないと思わない?」
蒼輝は少し考えた後、静かに答えた。
「わかる気がする。静けさが終わる合図みたいなものだからな」
優月は驚いたように彼を見つめ、それからふっと微笑んだ。
「そういう風に考えたことなかった。でも、確かにそんな感じがするね」
彼女は展望台の柵にもたれながら、小さく息を吐いた。
「私ね、夜明け前の空を見てると、自分の気持ちが少しだけ素直になれる気がするんだ」
「どうして?」
「たぶん、夜の間に抱えてたものが、朝になると全部流れていく気がするからかな」
蒼輝はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「……それなら、朝になるのも悪くないな」
優月は目を丸くした後、微笑んだ。
「うん、そうかもね」
二人はしばらく無言で、東の空に薄く広がる光を見つめた。夜が明けるその瞬間、心の奥で滲んでいた想いが少しだけ形になった気がした。
「ねぇ、また夜明けを一緒に見ようよ」
「……ああ」
——夜明けに滲む想い。
それは、静かに過ぎていく時間の中で、確かに残るものだった。
(第四十七章 完)