第四十六章「消えない光」
春日部市の夜空には、冬の冷たい空気を映すような透き通る星々が輝いていた。商店街のイルミネーションはまだ消えずに街を照らし、静かな夜に温かみを添えている。蒼真は、春日部八幡神社の境内にある石段に腰を下ろし、ポケットに手を入れながら空を見上げた。遠くから足音が近づき、彼の隣に舞花が静かに腰を下ろす。
「待たせちゃった?」
「いや、ちょうど来たところだ」
「それ、絶対ウソだよね」
「……まぁな」
舞花はくすっと笑いながら、手のひらをこすり合わせて息を吹きかけた。
「寒いね。でも、空気が澄んでて気持ちいい」
蒼真は頷きながら、視線を夜空に向けた。
「ねぇ、蒼真」
「ん?」
「消えない光って、あると思う?」
蒼真はしばらく考えた後、静かに答えた。
「あると思う。誰かの記憶の中に残るものは、きっと消えない」
舞花は驚いたように彼を見つめ、それからふっと微笑んだ。
「蒼真がそんなこと言うなんて、ちょっと意外」
「そうか?」
「うん。でも、そういうの、素敵だと思う」
舞花は夜空を見上げながら、小さく息を吐いた。
「私ね、昔、大切な人が言ってくれた言葉がずっと心に残ってるの」
「どんな言葉だ?」
「『どんなに暗くても、光は必ずどこかにある』って」
蒼真はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「……いい言葉だな」
「でしょ?」
二人はしばらく無言で星空を眺めた。冬の冷たい空気の中でも、不思議と心は温かかった。
「ねぇ、またここに来ようよ」
「……ああ」
——消えない光。
それは、誰かの心にそっと残り続ける、大切な想いだった。
(第四十六章 完)