第四十二章「直感」
鴻巣の冬空は、澄んだ青が広がっていた。冷たい空気の中、広場では準備中の花火大会のステージが設置され、わずかに風に揺れる幟がパタパタと音を立てている。晴は、手袋をつけた手をポケットに突っ込みながら、広場のベンチに腰掛けていた。ふと、冷えた空気の中に聞き慣れた足音が響き、振り向くと桃乃が軽やかに駆け寄ってきた。
「お待たせ!」
「いや、時間通りだ」
「寒いのに外で待っててくれたの?」
「まぁな」
桃乃は少し笑いながら、晴の隣に腰を下ろした。
「ねぇ、晴」
「ん?」
「何かを決めるときって、どうしてる?」
「どういう意味だ?」
「例えば、人生の大事な選択とか、直感で決めるタイプ?」
晴は少し考えた後、静かに答えた。
「基本的には考えて決めるが、最後は直感かもしれない」
「へぇ、それって意外」
「そうか?」
「うん、晴ってもっと冷静に計算して決めるのかと思ってた」
「考えすぎると動けなくなるからな。だから、最後は自分の気持ちを信じる」
桃乃は彼の言葉を噛みしめるように、小さく頷いた。
「それ、いい考え方かも」
「お前はどうなんだ?」
「私はね……どっちかというと、直感で動くタイプかな」
「らしいな」
「でも、たまに『これで良かったのかな』って不安になることもあるよ」
晴はしばらく黙った後、ふっと息を吐いた。
「それでも、お前が選んだ道なら、それが正解なんじゃないか?」
桃乃は驚いたように目を見開き、やがてふっと微笑んだ。
「……そう言ってもらえると、ちょっと安心する」
二人はしばらく無言で、広場の向こうに広がる冬空を眺めた。遠くの花火の準備が進む中、風が優しく頬を撫でる。
「ねぇ、また花火大会の日にここに来ようよ」
「……ああ」
——直感。
それは、時に迷いながらも、自分を信じるための大切な感覚だった。
(第四十二章 完)