表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/205

第三十七章「雨の中の告白」

 川越の街は、しとしとと降る冷たい雨に包まれていた。石畳の道には水たまりができ、蔵造りの街並みが雨に濡れてしっとりとした趣を増している。駿は、川越氷川神社の鳥居の前に立ち、傘を持たずに空を見上げていた。肌を打つ雨粒が冷たく、吐く息が白く染まる。

「……降るって言ってたか?」

 スマートフォンの天気予報を確認するが、午前中は曇りだったはずだ。そんなことを考えていると、遠くから足音が近づいてくる。振り向くと、美沙希が傘を片手に走ってきた。

「駿!傘持ってないの?」

「まぁな」

「もう、風邪ひくよ!」

 美沙希はため息をつきながら、自分の傘を少し傾け、駿の肩まで入るように差し出した。

「……悪いな」

「気にしないで。でも、なんでまたこんな雨の中にいるの?」

 駿は少し考えた後、「なんとなく」とだけ答えた。

「なんとなくって……駿って、時々何を考えてるのかわからないよね」

「そうか?」

「うん。でも、そういうところも駿らしいのかなって思うけど」

 二人はゆっくりと神社の境内へと歩き出した。

「ねぇ、雨の日って、特別な気がしない?」

「どういう意味だ?」

「なんだか、普段よりも静かで、自分の気持ちに素直になれる気がするの」

 駿は彼女の横顔をちらりと見た。

「……だから、こんな日に言おうと思ったんだ」

 美沙希は小さく息を吐き、傘をぎゅっと握った。

「私ね、ずっと駿のこと、特別に思ってた」

 駿は驚いたように彼女を見た。

「……そうか」

「うん。駿はいつも飄々としてるし、何を考えてるのか分からないときもあるけど……でも、そういうところも含めて、気になるんだよね」

 美沙希は雨に濡れた石畳を見つめながら、小さく笑った。

「だから、もし駿が私のことを少しでも特別に思ってくれてたら、嬉しいな」

 駿はしばらく無言で、雨が静かに降る音を聞いていた。そして、ゆっくりと口を開いた。

「……俺は鈍感だからな」

「え?」

「でも、お前がいてくれると、不思議と落ち着く」

 美沙希は一瞬驚いたように彼を見たが、やがて優しく微笑んだ。

「それなら、嬉しい」

 二人は並んで神社の境内を歩き続けた。

 ——雨の中の告白。

 それは、雨音に包まれながら、静かに心を通わせる時間だった。

(第三十七章 完)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ