第三十四章「心の中の真実」
埼玉の冬の朝は、ひんやりとした空気に包まれていた。大宮公園の木々は葉を落とし、静かな水面が朝の光を反射している。
悠也は、公園のベンチに座り、スマートフォンの画面を見つめながら静かに息を吐いた。
「……少し早く来すぎたか」
ポケットに手を入れながら空を見上げると、遠くから軽やかな足音が聞こえた。
「お待たせ!」
さおりがマフラーを巻き直しながら、小走りで駆け寄ってきた。
「早かったな」
「うん、今日はなんだか楽しみで」
悠也は軽く笑い、「お前らしいな」と呟いた。
公園の散歩と静かな会話
二人は並んで公園を歩き始めた。
「ねぇ、悠也」
「ん?」
「心の中にある本当の気持ちって、全部言葉にしなくても伝わると思う?」
悠也はしばらく考えた後、静かに答えた。
「言葉にしないと伝わらないこともあるが……本当に大事なことは、言葉じゃなくても分かる気がする」
さおりは驚いたように彼を見つめた。
「それって、悠也らしいね」
「どういう意味だ?」
「なんとなく、ちゃんと考えてるんだなって」
悠也は肩をすくめ、「まぁな」と呟いた。
心の中にある本当の気持ち
二人は公園の小さな橋の上で足を止め、池の水面を眺めた。
「ねぇ、悠也」
「ん?」
「今、何を考えてる?」
悠也は少し黙った後、静かに言った。
「……特に何も。でも、お前がここにいるのは悪くないと思ってる」
さおりは驚いたように目を見開き、やがてふっと微笑んだ。
「それって、褒められてる?」
「さぁな」
さおりはくすっと笑い、「でも、嬉しい」と呟いた。
変わらないものと、これからのこと
「ねぇ、またここに来ようよ」
「……ああ」
二人はゆっくりと歩き出した。
——心の中の真実。
それは、言葉にしなくても、確かにそこにあるものだった。
(第三十四章 完)