第三十二章「保護」
前橋の街は、冬の穏やかな陽射しに包まれていた。澄んだ空気の中、前橋公園の木々には薄く霜が降り、足元で霜柱がサクッと音を立てる。
湧大は、公園のベンチに座り、冷えた手をポケットに突っ込みながら、ゆっくりと深呼吸をした。
「……いい天気だな」
そう呟いた瞬間、軽やかな足音が近づいてきた。
「待たせちゃった?」
里香子が、マフラーを巻き直しながら少し息を弾ませて立っていた。
「いや、俺も今来たところだ」
「そっか、よかった!」
里香子は微笑みながら、彼の隣に腰を下ろした。
公園の静けさの中で
「ねぇ、湧大」
「ん?」
「誰かを守ることって、どう思う?」
湧大は少し考えた後、ゆっくりと答えた。
「守るっていうより、支えるって感じじゃないか?」
「支える?」
「ああ。誰かを守るっていうのは、一方的なものじゃなくて、お互いのバランスが大事だと思う」
里香子はしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。
「……確かにそうかも」
「お前は?」
「私はね、ずっと『守られる側』だった気がするんだ」
「ふーん……」
「でも、それじゃダメだなって最近思うようになったの」
湧大は興味深そうに彼女を見た。
「どうしてそう思うようになったんだ?」
「自分でも、誰かを支えたり、守れる存在になりたいなって思ったから」
湧大はしばらく考え込んだ後、小さく微笑んだ。
「それなら、お前はもう十分そういう人間になれてるんじゃないか?」
里香子は驚いたように彼を見た。
「え?」
「少なくとも俺は、お前がいると助かることもある」
里香子はしばらく驚いた表情を浮かべた後、やがてふっと微笑んだ。
「……そっか、それならちょっと自信持てるかも」
小さな約束
二人はしばらく無言で、公園の景色を眺めた。
「ねぇ、湧大」
「ん?」
「また、こういう時間を作ってもいい?」
湧大は小さく頷いた。
「……悪くないな」
里香子は満足そうに笑った。
——保護。
それは、一方的なものではなく、お互いに支え合うことで生まれるものだった。
(第三十二章 完)