第三十一章「未来への道標」
群馬の冬の空は、静かに澄んでいた。前橋公園の木々は薄く雪をまとい、冷たい風がゆっくりと吹き抜ける。
真也は、公園の入口近くのベンチに腰を下ろし、ポケットに手を入れながら空を見上げた。
「……寒いな」
そう呟いた瞬間、足音が近づいてきた。
「待たせた?」
綾子がマフラーを巻き直しながら、軽く息を切らして立っていた。
「まぁな」
「ごめんごめん、少し道が混んでて」
真也は肩をすくめながら、「お前らしいな」と呟いた。
未来についての話
二人は並んで公園を歩き始めた。
「ねぇ、真也」
「ん?」
「未来について、考えたりする?」
真也は少し考えた後、静かに答えた。
「考えないことはないが……先のことはあまり決めつけたくない」
綾子は興味深そうに彼を見た。
「どうして?」
「決めすぎると、選択肢が狭くなる気がする」
綾子はしばらく黙った後、「そういう考え方もあるね」と頷いた。
「でもね、私は未来に道標があったほうが安心するかも」
「どういうことだ?」
「たとえば、目指すものがあれば、それに向かって進めるじゃない?」
真也は腕を組みながら、「お前らしいな」と呟いた。
「まぁ、そうかもね」
小さな約束
公園の奥へ進むと、小さな池が凍っているのが見えた。
「ねぇ、真也」
「ん?」
「未来のこと、一緒に考えてみてもいい?」
真也は少し驚いたように彼女を見たが、やがて静かに頷いた。
「……いいんじゃないか?」
綾子は嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ、また話そうね」
——未来への道標。
それは、一人ではなく、誰かとともに歩むものだった。
(第三十一章 完)