第二十九章「直感」
宇都宮の冬の空は、透き通るような青さをたたえていた。冷たい風が街を吹き抜け、大通りには餃子の香ばしい香りが漂っている。
じんは、栃木県庁の前に立ち、スマートフォンをちらりと確認した。
「……時間ぴったりか」
ポケットに手を入れて待っていると、遠くから足音が近づいてきた。
「お待たせ!」
にこっと笑いながら駆け寄ってきたのは、あみだった。
「遅い」
「ちょっと道が混んでてさ。でも、間に合ったからいいでしょ?」
「まぁな」
あみはふっと笑いながら、「ほら、せっかくだし餃子食べに行こうよ!」と元気よく言った。
宇都宮の餃子店にて
二人は、県庁近くの老舗餃子店に入り、テーブルについた。
「ねぇ、じんって、物事を決めるとき、慎重に考えるタイプ?」
「そうだな。できるだけ失敗しないようにする」
「へぇ、意外」
「意外か?」
「うん、じんって、もっと直感で動くタイプかと思ってた」
じんは少し考えた後、餃子を一口食べ、「昔はそうだったかもな」と静かに言った。
「へぇ、じゃあ、なんで変わったの?」
「……一度、直感だけで動いて失敗したことがあってな」
「ふーん。でも、直感って悪いことばかりじゃないよ?」
あみはカリッと餃子を頬張りながら言った。
「どういうことだ?」
「だって、考えすぎると動けなくなっちゃうこともあるでしょ?」
じんは少し黙った後、「確かにな」と呟いた。
直感と理性のバランス
「ねぇ、じん」
「ん?」
「たまには、直感を信じてみたら?」
「……例えば?」
「うーん、じゃあ、今日このあとどこ行くか、直感で決めてみよう!」
じんは驚いたように彼女を見たが、やがて小さく笑った。
「……面白いな」
「でしょ?」
あみは満足そうに微笑んだ。
新しい一歩
「じゃあ、行くぞ」
「うん!」
二人は店を出て、冬の澄んだ空の下を歩き出した。
——直感。
それは、時に理性よりも確かな答えをくれるものだった。
(第二十九章 完)