第二十八章「心に描く未来」
栃木の冬空は、薄曇りの中にわずかな光を滲ませていた。宇都宮から電車で少し離れた小さなカフェで、奨は窓の外をぼんやりと眺めていた。
「……寒いな」
テーブルの上には、まだ湯気の立つコーヒー。カップを手に取ると、遠くから軽やかな足音が聞こえた。
「お待たせ!」
明るい声とともに、京子がコートの裾を整えながら席に着く。
「遅かったな」
「ちょっと道に迷っちゃって。でも、無事に来られたからよしとしよう!」
奨は小さく笑いながら、「お前らしいな」と呟いた。
未来を描く時間
「ねぇ、奨」
「ん?」
「未来のこと、考えたりする?」
奨はコーヒーを一口飲みながら、少し考えた後、静かに答えた。
「考えないことはないが、決めつけたくないんだよな」
「ふーん、それってどういうこと?」
「未来は自由なものだろ?だから、決めつけすぎると逆に窮屈になる気がする」
京子はカップを手に取りながら、しばらく考え込む。
「……なんか、奨っぽいね」
「お前はどうなんだ?」
「私は……未来って、自分で描くものだと思ってる」
奨は少し意外そうに彼女を見た。
「具体的に考えてるのか?」
「うん。でも、完璧な計画を立てるわけじゃなくて、ぼんやりとね。『こうなったらいいな』って思いながら、少しずつ形にしていく感じ」
奨は静かに頷いた。
「なるほどな」
「奨も、何か描いてる未来ってある?」
奨は窓の外の曇り空を見つめながら、小さく息を吐いた。
「……まだはっきりとはしてないが、何かを創りたいとは思ってる」
「創る?」
「うん。何か形になるものをな」
京子は嬉しそうに微笑んだ。
「それ、すごく素敵だね」
未来への一歩
「ねぇ、またこういう話、しようよ」
「……まぁ、悪くないな」
「もう、もっと素直に言えばいいのに!」
京子はクスッと笑いながら、カップを傾けた。
——心に描く未来。
それは、まだぼんやりとした形でも、確かに存在するものだった。
(第二十八章 完)