第二十七章「雨音が紡ぐ儚い約束」
ひたちなか市の空は、灰色の雲に覆われていた。国営ひたち海浜公園の広がる丘も、冬の雨に静かに濡れている。冷たい風が吹き抜ける中、豪は傘を片手に立ち尽くしていた。
「……雨か」
ポケットに手を入れながら、遠くの景色をぼんやりと眺めていると、小走りで駆け寄ってくる人影があった。
「ごめん、遅くなった!」
千紘が少し息を切らしながら、傘を閉じる。
「遅い」
「だって、電車が遅れちゃって……」
「まぁ、仕方ないな」
千紘は息を整えながら、少しだけ笑った。
「それにしても、雨の公園って、なんか特別な感じがするね」
「そうか?」
「うん、静かで落ち着く」
豪は頷きながら、傘を少し千紘の方へ傾けた。
雨音と静かな時間
二人は並んで歩きながら、濡れた草木を見つめた。
「ねぇ、豪」
「ん?」
「雨の音って、なんか不思議だよね」
豪はしばらく考えた後、静かに答えた。
「どういう意味だ?」
「なんだか、思い出を呼び起こすような感じがするの」
千紘は水たまりを見つめながら、小さく息を吐いた。
「……昔、大切な約束をしたことがあってね」
「約束?」
「うん。でも、結局果たせなかったんだ」
豪は静かに千紘の横顔を見つめた。
「後悔してるのか?」
「……ううん、後悔とは違うかな」
千紘は小さく笑った。「ただ、今でもその約束を思い出すたびに、心が少しだけ切なくなるんだよね」
豪は傘の柄を握り直しながら、雨音を聞いた。
「約束は、儚いものかもしれないな」
「うん……でも、それでも大事にしたいよね」
「そうだな」
儚い約束と、新しい約束
二人は公園のベンチに腰を下ろした。雨の音が優しく響いている。
「ねぇ、豪」
「ん?」
「また、ここに来ようよ。晴れた日に」
豪は一瞬驚いたが、やがて静かに頷いた。
「……ああ」
千紘は満足そうに微笑んだ。
——雨音が紡ぐ儚い約束。
それは、たとえ果たせなくても、心に残り続けるものだった。
(第二十七章 完)