第二十六章「初めての夜景」
つくば市の夜は、澄んだ空気に包まれていた。筑波山の展望台から見下ろすと、遠くの街の灯りがまるで宝石のように輝いている。冷たい風が吹く中、遥は静かに立ち尽くしていた。
「……思ったより綺麗だな」
ポケットに手を入れながら、遠くの景色を見つめていると、後ろから軽やかな足音が聞こえた。
「お待たせ!」
音羽が小走りで駆け寄ってきた。
「遅い」
「ごめんごめん、ロープウェイが思ったより混んでて」
「まぁ、今日は天気もいいしな」
音羽は息を整えながら、展望台の柵にもたれかかった。
「それにしても……すごいね、この夜景」
「そうだな」
遥は腕を組みながら、街の灯りを眺めた。
夜景の中にある想い
「ねぇ、遥」
「ん?」
「夜景って、なんでこんなに綺麗なんだろうね?」
遥はしばらく考えた後、静かに答えた。
「光があるからだろ」
「そりゃそうだけど……でも、それだけじゃない気がする」
音羽は静かに夜景を見つめながら、小さく息を吐いた。
「きっとね、こうして誰かと一緒に見るから、特別に感じるんじゃないかな」
遥は少し驚いたように彼女を見た。
「……お前にしては、ロマンチックなこと言うな」
「えぇ、ひどい!」
「いや、普段はもっと現実的なことばかり言うからさ」
音羽はふっと笑いながら、「でも、本当にそう思ったんだよ」と言った。
「こうして誰かと一緒にいると、それだけで景色が違って見える気がする」
「……かもな」
遥は小さく頷いた。
心が傷つくときと、支えられるとき
しばらく夜景を眺めていた音羽が、ふと声を落とした。
「ねぇ、遥」
「なんだ?」
「もしさ、誰かがすごく傷ついてたら、どうする?」
遥は少し考えたあと、静かに答えた。
「そばにいてやるしかないだろ」
音羽は驚いたように彼を見つめた。「……意外と優しいんだね」
「そうか?」
「うん。でも、それって大事なことだよね」
音羽は夜景を見つめながら、小さく微笑んだ。
「私も、誰かのそばにいられる人でいたいな」
遥は静かに彼女の横顔を見つめた。
「お前なら、なれるんじゃないか?」
音羽は驚いたように目を丸くし、やがてふっと笑った。
「……そう思ってもらえるなら、嬉しいな」
夜景の中で交わる想い
「ねぇ、また夜景を見に来ようよ」
「……ああ」
二人は静かに並んで、夜空に輝く街の灯りを見つめた。
——初めての夜景。
それは、ただの景色ではなく、心の中にそっと灯るものだった。
(第二十六章 完)