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第二十五章「すれ違い」

 水戸の冬の空は、どこまでも澄み渡り、柔らかな陽射しが偕楽園の梅の枝を静かに照らしていた。冬の梅はまだ蕾を閉じたままだが、ほのかに春の気配を感じさせる。

 祐樹は、弘道館の前に立ち、ポケットからスマートフォンを取り出して時間を確認した。

「……時間ぴったりか」

 冷たい風が吹く中、遠くから軽やかな足音が近づいてきた。

「お待たせ!」

 笑顔で駆け寄ってきたのは、里菜だった。

「遅いぞ」

「ちょっと道に迷っちゃって……でも、こうして来られたからいいでしょ?」

「まぁな」

 祐樹は肩をすくめながら、彼女の隣に並んだ。

 梅の香りとすれ違う気持ち

 二人は静かに園内を歩き始めた。

「ねぇ、祐樹」

「ん?」

「最近、すれ違いを感じることってある?」

「すれ違い?」

「うん、人と話していて、『あ、伝わってないな』って思う瞬間とか」

 祐樹はしばらく考えた後、「あるかもな」と静かに答えた。

「どうしてそんなこと聞くんだ?」

「なんとなく……最近、自分の気持ちをうまく伝えられてないなって思うことが増えてきて」

 里菜は、梅の蕾を見つめながら小さく息を吐いた。

「誰かと一緒にいても、どこか噛み合わないというか……」

 祐樹は静かに彼女の横顔を見つめた。

「それは、お前が変わったからかもしれないな」

「え?」

「お前は前より、いろんなことを深く考えるようになったんじゃないか?」

「……そうなのかな」

「たぶんな」

 里菜はしばらく黙っていたが、やがて小さく微笑んだ。

「そうだとしたら、それは悪いことなのかな?」

「いや、悪いことじゃない」

「そっか……」

 すれ違いの中にある答え

 二人はしばらく無言で歩いた。

「ねぇ、祐樹」

「ん?」

「私たちも、いつかすれ違っちゃうのかな?」

 祐樹は足を止め、静かに彼女を見た。

「すれ違うことはあるかもしれない。でも——」

「でも?」

「それでも、お互いに歩み寄ろうとすれば、また同じ道に戻れるだろ」

 里菜は驚いたように彼を見つめ、やがてふっと笑った。

「……そっか。なら、すれ違いも怖くないね」

 祐樹は、静かに頷いた。

 冬の終わりと、新しい始まり

「ねぇ、また来ようよ。梅が咲く頃に」

「……ああ」

 二人はゆっくりと歩き出した。

 ——すれ違い。

 それは、一緒にいるからこそ生まれるもの。だからこそ、乗り越えられるものでもある。

(第二十五章 完)


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