第二十四章「ランチデート」
茨城の冬空は、柔らかな陽射しに包まれていた。少し冷たい風が吹く中、晴斗はつくばエクスプレスの駅前で立ち止まり、スマートフォンの画面を確認した。
「……時間ぴったりか」
ちらりと周囲を見渡すと、千裕がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「晴斗、待たせちゃった?」
「いや、ちょうど来たところだ」
「そっか、よかった!」
千裕はにこっと笑いながら、バッグを肩に掛け直す。
「お腹すいてない?」
「まぁな」
「じゃあ、行こう!」
彼女は楽しそうに歩き出した。
つくばの街で過ごす時間
二人は筑波山の麓にあるレストランへ向かっていた。窓際の席に案内されると、温かな日差しがテーブルを照らしていた。
「ねぇ、晴斗」
「ん?」
「こうやってのんびりランチするの、久しぶりじゃない?」
「そうかもな」
メニューを開きながら、千裕は少し考え込んだ。
「今日は、直感で選んでみようかな」
「お前にしては珍しいな」
「だって、いつも決めるのに時間かかっちゃうから」
「まぁ、それもお前らしいけどな」
千裕は苦笑しながら、「じゃあ、晴斗は?」と尋ねた。
「俺はいつも通り、無難なのを選ぶさ」
「つまんない!」
「安定が一番だ」
二人は笑いながら、それぞれの料理を注文した。
食事と会話と、ちょっとした気づき
料理が運ばれてくると、千裕は興味津々な様子で皿を覗き込んだ。
「わぁ、美味しそう!」
「そんなに興奮することか?」
「だって、食事って大事でしょ?」
千裕は一口食べて満足そうに頷いた。「うん、やっぱり正解だった!」
晴斗もスプーンを持ち、静かに食事を進めた。
「こういう時間って、なんかいいね」
千裕がぽつりと呟く。
「どういう意味だ?」
「日常の中で、何気なく誰かと過ごす時間のこと」
晴斗はしばらく考えた後、「確かにな」と静かに頷いた。
「何気ないことでも、積み重ねていくと大事になるんだろうな」
「そうそう!」
千裕は嬉しそうに笑いながら、スープを一口すする。
ランチデートの終わりに
食事を終え、レストランを出ると、澄んだ空気が二人を包んだ。
「ねぇ、またこういう時間作ろうよ」
「……まぁ、気が向いたらな」
「もう、晴斗ってほんとに素直じゃないんだから!」
千裕は軽く笑いながら、駅の方向へと歩き出した。
——ランチデート。
それは、ただ一緒に過ごすだけで心が温かくなる、そんな時間だった。
(第二十四章 完)