第二十二章「未来への期待」
郡山の街は、冬の透き通った空気に包まれていた。安積歴史博物館のレンガ造りの建物が夕日に染まり、ノスタルジックな雰囲気を漂わせている。
一平は博物館の前でポケットに手を入れながら、冷たい風を感じていた。
「……少し早く着きすぎたか」
時間を確認すると、待ち合わせにはまだ余裕がある。雪がちらちらと舞い始めた頃、足音が近づいてきた。
「遅くなってごめん!」
里沙子が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「お前が時間通りに来るなんて思ってなかったけどな」
「もう、そんなこと言わないでよ!」
彼女は軽く息を整えながら、一平の隣に並んだ。
歴史が息づく場所で
二人はゆっくりと博物館の敷地内を歩き始めた。
「ねぇ、一平」
「ん?」
「未来のことって、どれくらい考えてる?」
「未来?」
「うん。私は最近、ちょっとずつだけど、未来のことを具体的に考えるようになったんだ」
「珍しいな」
「どういう意味?」
「お前は、今この瞬間を大事にするタイプかと思ってたから」
里沙子は少し考え込み、「それは間違ってないかも」と頷いた。
「でも、今の自分の積み重ねが未来になるなら、やっぱりちゃんと考えたいなって思うんだよね」
一平はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「俺は……目の前のことを一つずつやるだけだな」
「らしいね」
里沙子はふっと笑いながら、雪が降る空を見上げた。
「でも、それってすごく大事なことだと思う」
「そうか?」
「うん。一平って、どんなときも前に進もうとしてるし、ちゃんと未来を作ってるって感じがするから」
「……お前も、そうなんじゃないか?」
「え?」
「お前が今考えてることも、未来への期待につながってるんだろ?」
里沙子はしばらく驚いたように彼を見ていたが、やがて優しく微笑んだ。
「そうかもね」
未来を見つめて
「ねぇ、またこういう時間を作ろうよ」
「……悪くないな」
二人はゆっくりと雪の降る道を歩き出した。
——未来への期待。
それは、今を積み重ねることで生まれるものだった。
(第二十二章 完)