第二十一章「重なる鼓動」
福島市の空は、冬の透明な青に包まれていた。花見山公園の木々には薄く雪が積もり、陽の光が反射してきらきらと輝いている。冷たい風が吹くたび、枝から細かな雪が舞い落ちた。
圭介は、静かに公園の入り口に立っていた。
「……やっぱり寒いな」
コートのポケットに手を突っ込みながら、時計を確認する。待ち合わせの時間を少し過ぎている。
「遅いな……」
呟いた直後、小さな足音が雪を踏みしめる音とともに近づいてきた。
「ごめん、待った?」
茉白が少し息を弾ませながら駆け寄ってきた。頬は寒さで赤くなっている。
「少しな」
「もう、寒いんだから早く呼び出してくれればいいのに」
「まぁ、お前が遅いのは想定内だしな」
「ちょっと!それ、どういう意味?」
茉白はぷくっと頬を膨らませたが、すぐにクスッと笑った。
静寂の中にある確かなもの
二人は並んで公園を歩き始めた。雪を踏みしめる音だけが静かに響く。
「ねぇ、圭介」
「ん?」
「最近、何かに本気になったことある?」
圭介は少し考えたあと、「毎日それなりに頑張ってるつもりだけどな」と答えた。
「それって、なんか味気なくない?」
「そうか?」
「うん。せっかくなら、心が熱くなるようなことに本気で向き合うのもいいんじゃない?」
茉白はそう言いながら、遠くの山を眺めた。
「たとえば?」
「私は最近、新しいことに挑戦してみようかなって思ってるんだ」
「お前が?」
「うん、もっと自分の限界を超えてみたくて」
圭介は彼女をじっと見つめた。
「無理するなよ」
「無理なんかしないよ。でも、こうして誰かと一緒にいると、自分の気持ちがちゃんとあるって感じられるんだよね」
茉白はゆっくりと足を止めた。
「圭介は、誰かといるとき、自分の鼓動が重なるような瞬間を感じたこと、ある?」
圭介は静かに息を吸い、冷たい空気が肺に染み込むのを感じた。
「……あるかもしれないな」
「そっか、それならよかった」
二人はしばらく無言で立ち尽くした。雪がゆっくりと降り続ける。
心が静かに響く場所
「そろそろ、行くか」
「うん」
二人はゆっくりと歩き出す。
——重なる鼓動。
それは、言葉よりも確かなものだった。
(第二十一章 完)