表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/205

第二十一章「重なる鼓動」

 福島市の空は、冬の透明な青に包まれていた。花見山公園の木々には薄く雪が積もり、陽の光が反射してきらきらと輝いている。冷たい風が吹くたび、枝から細かな雪が舞い落ちた。

 圭介は、静かに公園の入り口に立っていた。

「……やっぱり寒いな」

 コートのポケットに手を突っ込みながら、時計を確認する。待ち合わせの時間を少し過ぎている。

「遅いな……」

 呟いた直後、小さな足音が雪を踏みしめる音とともに近づいてきた。

「ごめん、待った?」

 茉白が少し息を弾ませながら駆け寄ってきた。頬は寒さで赤くなっている。

「少しな」

「もう、寒いんだから早く呼び出してくれればいいのに」

「まぁ、お前が遅いのは想定内だしな」

「ちょっと!それ、どういう意味?」

 茉白はぷくっと頬を膨らませたが、すぐにクスッと笑った。

 静寂の中にある確かなもの

 二人は並んで公園を歩き始めた。雪を踏みしめる音だけが静かに響く。

「ねぇ、圭介」

「ん?」

「最近、何かに本気になったことある?」

 圭介は少し考えたあと、「毎日それなりに頑張ってるつもりだけどな」と答えた。

「それって、なんか味気なくない?」

「そうか?」

「うん。せっかくなら、心が熱くなるようなことに本気で向き合うのもいいんじゃない?」

 茉白はそう言いながら、遠くの山を眺めた。

「たとえば?」

「私は最近、新しいことに挑戦してみようかなって思ってるんだ」

「お前が?」

「うん、もっと自分の限界を超えてみたくて」

 圭介は彼女をじっと見つめた。

「無理するなよ」

「無理なんかしないよ。でも、こうして誰かと一緒にいると、自分の気持ちがちゃんとあるって感じられるんだよね」

 茉白はゆっくりと足を止めた。

「圭介は、誰かといるとき、自分の鼓動が重なるような瞬間を感じたこと、ある?」

 圭介は静かに息を吸い、冷たい空気が肺に染み込むのを感じた。

「……あるかもしれないな」

「そっか、それならよかった」

 二人はしばらく無言で立ち尽くした。雪がゆっくりと降り続ける。

 心が静かに響く場所

「そろそろ、行くか」

「うん」

 二人はゆっくりと歩き出す。

 ——重なる鼓動。

 それは、言葉よりも確かなものだった。

(第二十一章 完)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ