第十六章「君がいる安心感」
秋田の夜風は冷たく、星々が静かに瞬いていた。秋田竿燈まつりの喧騒が遠くに聞こえ、街はどこか幻想的な雰囲気に包まれている。
優は千秋公園のベンチに腰掛け、スマートフォンの画面をぼんやりと眺めていた。
「……来るの、遅いな」
そう呟いた瞬間、足音が近づいてきた。
「ごめん、待った?」
まりが少し息を切らしながら駆け寄ってくる。
「まぁな」
「だって、祭りの人混みがすごかったんだもん!」
「予想できただろ」
「う……それはそうだけど」
まりは肩をすくめながら、優の隣に腰を下ろした。
竿燈の灯りと静かな時間
千秋公園の広場には、祭りの余韻が残っていた。提灯の灯りが柔らかく揺れ、夜風が竹の葉をそっと揺らしている。
「なんか、こういう時間もいいね」
まりがふと呟く。
「祭りの賑やかさも楽しいけど、こうして静かに過ごすのも悪くないな」
「そうかもな」
優は夜空を見上げた。星が瞬き、遠くの提灯の光と交じり合う。
「ねぇ、優」
「ん?」
「君がいると、なんか安心するんだよね」
優は少し驚いたようにまりを見る。「……急にどうした?」
「うーん……なんとなく?」
まりは笑いながら、夜空を指さした。「ほら、星が綺麗だから、つい素直になったのかも」
「……そっか」
優はポケットに手を突っ込みながら、小さく微笑んだ。
「じゃあ、またこうして来ればいい」
「え?」
「ここなら、いつでも静かだしな」
まりはしばらく黙っていたが、やがて優しく微笑んだ。
「……うん、また来ようね」
——君がいる安心感。
それは、言葉にしなくても伝わる、穏やかな気持ちだった。
(第十六章 完)