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第158章 二人の時間

 三重県、豊橋動植物園の温室。鮮やかな花々が咲き誇り、湿った空気が広がっている。直樹はベンチに腰掛け、熱帯植物をぼんやりと見つめていた。他者の成功を共に喜び、短期的な成果を重視するタイプだが、最近はその姿勢が自分自身を追い詰めている気がしていた。

「俺、やっぱり焦りすぎたのかな…」

 先日のミーティングで、短期的な成果を求めすぎて、他のメンバーと意見が食い違った。成果を急ぐあまり、他者の意見を聞く余裕がなかったのだ。普段は柔軟に考えようとしているつもりだが、今回はその場の勢いで判断してしまった自分が悔しかった。

「直樹?」

 声をかけたのは美陽だった。彼女はチームワークを大切にし、自分の弱点を認識しながらも改善しようと努力するタイプだ。直樹にとって、その謙虚さと前向きさが心強く、時には少し眩しく感じる存在だった。

「どうしてここに?」

「さっき、みんなで話してたの。直樹が元気ないって聞いたから、ここかなって思って」

 直樹は少し笑って、「やっぱりバレてたか」と苦笑した。美陽は隣に腰掛け、色とりどりの花を見渡した。

「プロジェクトのこと、まだ気にしてるんでしょ?」

「ああ…俺、短期的に結果を出さなきゃって焦ってたんだ。みんなの意見を聞かないで、自分勝手に進めちゃってさ」

 美陽は軽く頷き、「直樹って、成果を出そうとする意識が強いから、つい前のめりになっちゃうんだよね。でも、その姿勢自体は悪くないと思うよ」と言った。その言葉に、直樹は少し戸惑った。

「でも、みんなが納得してないのに突き進むのは、リーダーとして失格だろ?」

「そうかもしれないけど、直樹が一生懸命なのはみんな分かってると思う。だから、その気持ちを伝えるために、もう少しゆっくり話し合ってもいいんじゃないかな」

 直樹はその言葉にハッとして、少し考え込んだ。確かに、短期成果を急ぐあまり、チーム全体の意見を無視してしまったことが原因だったのかもしれない。

「俺、焦りすぎてたのかもな…自分だけが先に進もうとして、みんなの気持ちを置き去りにしてた」

「そうかも。でも、直樹がしっかりやろうとしてた気持ちは、誰も否定してないよ。ただ、その気持ちをもう少し共有できたら、もっとスムーズに進めたかもね」

 直樹は息をつき、温室の湿った空気を吸い込んだ。心の中のもやもやが、少しずつ溶けていくような気がした。

「次は、もう少しみんなと話し合って進めるよ。自分の考えだけじゃなくて、チームとしてどうすべきかを考える」

「それがいいと思う。直樹がリーダーとして引っ張ってくれるのは頼もしいけど、たまには歩幅を合わせるのも大事だよね」

 直樹は少し笑って、「ありがとう、美陽。君が話してくれなかったら、きっとまた同じことを繰り返してたかもしれない」と呟いた。

「どういたしまして。直樹が元気だと、私も嬉しいから」

 その言葉に、直樹は少し照れくさそうに、「頼りにしてる」と答えた。美陽はその言葉に安心したように微笑んだ。

「また、ここに来ような。次は、みんなで笑って話ができるように頑張るよ」

「うん、その時は一緒にお弁当持ってきて、ピクニックしようね。自然の中で話すと、もっとリラックスできると思う」

 ふと、美陽が直樹の手をそっと握った。

「美陽…?」

「なんかね、直樹が落ち込んでると私も悲しくなるから。だから、もっと自分を信じてほしいな」

 その言葉に、直樹は少しだけ胸が温かくなり、ぎゅっと手を握り返した。

「ありがとう。君に話して良かったよ」

「これからも、一緒に頑張ろうね。私も、直樹が元気だと頑張れるから」

 色鮮やかな花々が二人を包み込み、温室のガラス越しに夕日が差し込んでいる。湿った空気の中でも確かな温かさが二人を包み込んでいた。

「美陽って、どうしてそんなに前向きなんだ?」

「私もね、失敗するときはあるけど、そこで止まっちゃったら意味がないと思うの。だから、失敗しても次に活かすって決めてるんだ」

 直樹はその考え方に感心しながら、「俺も、もう少しそうやって考えられるようになりたい」と呟いた。

「大丈夫。直樹にはその力があるよ。焦らずに、一歩ずつ進んでいこうね」

 直樹はその言葉に頷き、もう一度深呼吸をした。美陽の優しさが、冷えた心をそっと温めてくれた。

 二人の時間。それは、美陽がくれた希望の瞬間だった。

 終


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