第156章 雨音が織りなすメロディ
豊川市、豊川稲荷の境内。雨がしとしとと降り続き、赤い鳥居が雨粒に濡れて鮮やかに映えている。大聖は傘をさしながら、静かな境内を歩いていた。正義感が強く、自分の考えをしっかりと伝えることができるが、その自信が時には根拠のない強さとして現れることがある。
「俺、やっぱりやりすぎたのか…」
先日のプロジェクトで、リーダーシップを発揮しようとしたが、自分の意見を強く主張しすぎて、結果的にメンバーが委縮してしまった。自分が正しいと思っていたが、その勢いが周囲を圧迫していたと気づいたときには、すでに遅かった。
「大聖?」
声をかけたのは詩織だった。彼女はトラブルを避けるのが得意で、常に自分を改善しようとする努力家だ。一貫した行動を取る姿勢があり、その冷静さが大聖にとって救いのように感じている。
「どうしてここに?」
「さっき、みんなで話してたの。大聖が元気ないって聞いたから、ここにいるんじゃないかと思って」
大聖は少し笑って、「やっぱりバレてたか」と苦笑した。詩織は隣に立ち、同じように雨に濡れた鳥居を見つめた。
「プロジェクトのこと、まだ気にしてるんでしょ?」
「ああ…俺がリーダーとして引っ張らなきゃって思ってたけど、結果としてみんなの意見を押しつぶしてしまった。正しいって思ったから、つい強く言い過ぎたんだ」
詩織は軽く頷き、「大聖って、正義感が強いから、自分が正しいと思ったときには譲らないよね。でも、その強さが時にはみんなを遠ざけることもあるんだよ」と言った。その言葉に、大聖は少し戸惑った。
「でも、間違っていることをそのままにしておくのは嫌なんだ。だからこそ、強く言わなきゃって思ってさ」
「うん、その気持ちは分かるよ。でもね、リーダーとして大事なのは、正しさを示すだけじゃなくて、みんなが納得できるように導くことなんじゃないかな」
大聖はその言葉にハッとして、少し考え込んだ。確かに、自分の正しさを押し通すだけでは、みんながついてきてくれるとは限らない。
「俺、正しいことを言うのがリーダーだって思ってたけど、それだけじゃダメなんだな…」
「そうだね。でも、大聖が一生懸命考えてるのは、みんな分かってるよ。ただ、その言い方がもう少し柔らかければ、もっとみんながついてきやすかったかも」
大聖は息をつき、冷たい雨の音を聞きながら反省した。自分が正しいと信じて突き進むだけでは、周りの気持ちを無視してしまうのだ。
「次は、もっとみんなの意見を聞きながら進めるよ。自分だけが正しいって思い込まずにさ」
「それがいいと思う。大聖がリーダーとしてしっかりしてくれるのは心強いけど、たまには一歩引いて聞いてみるのも大事だと思う」
大聖は深呼吸し、雨の匂いを吸い込んだ。詩織の言葉が心に染みて、少しだけ気持ちが楽になった。
「ありがとう、詩織。君が言ってくれたおかげで、少し気が軽くなったよ」
「どういたしまして。私も、大聖が元気でいてくれると安心するから」
その言葉に、大聖は少し照れくさそうに、「頼りにしてる」と答えた。詩織はその言葉に笑って、「私もね」と静かに呟いた。
「また、ここに来ような。次は、上手くいった話をしに来るよ」
「うん、その時は一緒に甘酒でも飲んで温まろうね」
ふと、詩織が大聖の袖をそっと引いた。
「ねえ、大聖。どうしてそんなに正しさにこだわるの?」
「やっぱり、正しいことをしないと、誰かが困るんじゃないかって思ってさ。間違いを放っておけないんだ」
「うん、その気持ちも分かるよ。でも、正しさを押し付けると、かえって相手が反発することもあるんだよね。だからこそ、まずは相手の気持ちを聞いてみることも大事じゃない?」
大聖はその考え方に感心しながら、「確かに、俺は正しいって思うと、つい強く出ちゃうんだよな」と反省した。
「大丈夫だよ。次はきっと上手くいくよ。私もサポートするから、一緒に頑張ろうね」
大聖はその言葉に頷き、もう一度深呼吸をした。詩織の優しさが、冷えた心をそっと温めてくれた。
「ありがとう、詩織。本当に感謝してる」
「こちらこそ。大聖が元気になってくれて、私も嬉しいよ」
雨音が優しく響く境内で、二人の声が混ざり合う。冷たい風が吹き抜けるが、二人の間には確かに温かさがあった。
雨音が織りなすメロディ。それは、詩織がくれた柔らかさと温かさだった。
終