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第153章 交わる鼓動

 豊田市、豊田スタジアムの周辺。夕暮れ時、スタジアムの影が長く伸びている。だいちは歩道に立ち、スタジアムを眺めながら深いため息をついた。手際が良く、協力的な性格の持ち主であるが、自分で解決したがる癖があり、今日はその性格が裏目に出たことで落ち込んでいた。

「俺、やっぱり一人で突っ走ってたのか…」

 数日前、プロジェクトの進行が滞っているのを見かねて、だいちは自分の判断で作業を進めた。しかし、チームメンバーとの連携を欠いた結果、進めた部分が無駄になってしまった。周囲からは「もう少し相談してほしかった」と言われ、その言葉が胸に刺さっている。

「だいち?」

 声をかけたのは美穂香だった。彼女は自由な発想を持ち、好奇心旺盛で、物事に対して柔軟に取り組むタイプだ。だいちにとって、彼女の考え方は時に刺激的で、自分にない視点を持っている。

「どうしてここに?」

「さっき、会社でだいちが元気ないって聞いたから、ここかなって思ってさ」

 だいちは少し笑って、「やっぱりバレてたか」とつぶやいた。美穂香は隣に立ち、スタジアムを見上げた。

「プロジェクトのこと、まだ気にしてるんでしょ?」

「ああ…俺、自分でやったほうが早いって思っちゃってさ。でも、結果的にみんなを無視してたんだよな」

 美穂香は少し笑って、「だいちって、手際がいいからこそ、つい自分で全部やっちゃうんだよね」と言った。その言葉に、だいちは少し戸惑った。

「でも、時間がないときって、やれることを先に進めたほうがいいだろ?」

「うん、それは分かるよ。でも、チームでやってるからこそ、他の人にも任せることが大事なんじゃない?」

 だいちはその言葉にハッとして、少し考え込んだ。確かに、自分がリードしなきゃと焦るあまり、周囲を信用していなかったのかもしれない。

「俺、周りに頼るのが下手なんだな…」

「そうかも。でも、だいちが頑張ってるのはみんな分かってるよ。ただ、もう少しだけ一緒にやるって気持ちがあれば、もっとスムーズに進むと思う」

 だいちは息をつき、冷たい風を感じながら反省した。自分が正しいと信じるだけでは、チームとしての力が発揮できないと気づいた。

「次からは、もう少しみんなに声をかけてみるよ。一人で突っ走るだけじゃなくて、ちゃんと協力を求めてさ」

「それがいいと思う。だいちが一人でやっても、結局みんなが追いつけないと意味ないからね」

 だいちは深呼吸し、冷たい空気を吸い込んだ。心の中のもやもやが、少しずつ晴れていく感覚があった。

「ありがとう、美穂香。君が言ってくれなかったら、また同じことを繰り返してたかもしれない」

「どういたしまして。だいちが前向きになってくれると嬉しいから」

 その言葉に、だいちは少し照れくさそうに、「頼りにしてる」と答えた。美穂香はその言葉に安心したように笑った。

「また、ここに来ような。次は、みんなで笑って話ができるように頑張るよ」

「うん、そのときは一緒にスタジアムで観戦しようね。みんなで声を合わせて応援したら、きっと元気が出るよ」

 だいちはその提案に頷き、「それ、楽しそうだな」と笑った。美穂香の柔らかい笑顔が、冷えた心をじんわりと温めてくれた。

 ふと、美穂香がだいちの袖を軽く引いた。

「ねえ、だいち。どうしてそんなに一人で抱え込もうとするの?」

「うーん、やっぱり俺、結果を出すのが大事だって思っちゃうんだよな。待ってたら時間がもったいない気がしてさ」

「でもね、みんなで一緒にやるからこそ、結果も共有できるんだよ。一人で頑張っても、チームで達成しないと意味がないでしょ?」

 だいちはその考え方に感心しながら、「そうだな…俺、少し焦りすぎてたのかも」とつぶやいた。

「うん、少しずつでいいから、もうちょっとみんなを頼ってみて。だいちならきっとできるよ」

 スタジアムの照明が少しずつ灯り始め、薄暗かった空がオレンジ色に染まっていく。二人はその光景を眺めながら、少しずつ前を向いて歩き出した。

「ありがとう、美穂香。本当に感謝してる」

「こちらこそ。だいちが元気になってくれて嬉しいよ」

 交わる鼓動。それは、美穂香がくれた信頼の温かさだった。

 終


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