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第150章 すれ違う想い

 豊橋市、吉田城跡の石垣の上から見下ろすと、冬枯れの木々が冷たい風に揺れている。元気は石垣に腰掛け、空を見上げていた。自分のペースで物事を進める性格で、他者と協力しながら目標に向かう姿勢を大事にしているが、最近はその歩調がうまく合わないことが増えている。

「どうして、こんなにすれ違うんだろう…」

 つい先日のチーム活動で、意見が合わずに議論が停滞してしまった。元気は自分なりに計画を立てて進めようとしたが、他のメンバーが思うように動いてくれなかったのだ。結果的に自分だけが先走ってしまい、周りとの温度差が広がってしまった。

「元気?」

 振り返ると、菫が立っていた。彼女は忍耐力があまりなく、少し悲観的になりがちなところがあるが、困難を乗り越えるために計画的に動こうと努力する性格だ。元気の仲間として、いつもサポートしてくれている存在だ。

「どうしてここに?」

「さっき、みんなで話してたの。元気が元気ないって。ここが好きって言ってたから、もしかしてと思って」

 元気は少し笑って、「やっぱりバレてたか」と苦笑した。菫は隣に腰掛け、吉田城跡を見渡した。

「プロジェクトのこと、まだ気にしてるんでしょ?」

「ああ…俺、自分のペースでやればうまくいくと思ってたんだけど、結局周りと合わなくてさ。気づいたら、俺だけ浮いてたんだ」

 菫は軽く頷き、「元気って、すごく前向きだからね。でも、その勢いが時々みんなを置いてけぼりにしちゃうのかも」と言った。その言葉に、元気は少し戸惑った。

「俺、みんなのために頑張ってるつもりだったんだけど、そう見えてなかったのか…」

「うん、その気持ちは分かるよ。でも、元気が先走りすぎて、みんながついてこれなくなると、逆に足並みが揃わなくなっちゃうんだよね」

 元気はその言葉にハッとして、考え込んだ。確かに、自分だけが焦って前に出てしまい、みんなの歩調を無視していたのかもしれない。

「俺、みんなが遅いって思ってたけど、実際は俺が早すぎたんだな…」

「そうかも。でも、それって元気が一生懸命だからでしょ?ただ、その一生懸命さがもう少し柔らかくなれば、きっとみんなもついてきやすいと思う」

 元気は少し息をつき、冷たい風を感じながら反省した。自分のやり方が正しいと信じて突っ走るだけでは、仲間との絆が生まれないのだ。

「次は、もう少しみんなと話し合ってから進めるよ。自分のペースだけじゃなくて、みんなのペースも考える」

 菫は微笑みながら、「それがいいと思う。元気ならきっとできるよ」と励ました。

「ありがとう、菫。君が話してくれなかったら、きっとまた独りよがりになってたかもしれない」

「どういたしまして。私も元気が元気でいてくれると安心するから」

 その言葉に、元気は少し照れくさそうに、「頼りにしてる」と答えた。菫はその言葉に安心したように笑った。

「また、ここに来ような。次は、みんなと一緒に笑って話ができたらいい」

「うん、その時は一緒にお菓子でも持ってこようね」

 二人はゆっくりと石垣から降り、枯れ葉が舞う道を歩き出した。冷たい風が吹き抜ける中、二人の間には確かに温かさがあった。

「菫って、どうしてそんなに慎重なんだ?」

「私もね、昔はもっと突っ走ってたんだけど、何度も失敗して…それから少し考えるようになったの。失敗するのが怖くてね」

 元気はその考え方に感心しながら、「俺も、もう少し慎重に考えられるようになりたい」と呟いた。

「大丈夫だよ。元気には元気の良さがあるんだから。でも、ちょっとだけ歩調を合わせてくれたら、みんなももっと助かると思う」

 元気はその言葉に小さく頷き、もう一度深呼吸をした。少しずつ、自分の歩みを周りに合わせることを意識してみようと思えた。

「ありがとう、菫。本当に感謝してる」

「こちらこそ。元気が前向きになってくれて嬉しいよ」

 二人は吉田城跡を後にし、ゆっくりと歩き出した。冷たい風が、二人の背中をそっと押してくれるようだった。

 すれ違う想い。それは、元気が仲間を信じて歩幅を合わせると決めた瞬間だった。

 終


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