表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/205

第十五章「星降る夜の淡い告白」

 仙台の街に、七夕の光が揺れていた。笹飾りが夜風にそよぎ、優しい灯りが通りを照らしている。

 成は、瑞鳳殿の静かな参道をゆっくりと歩いていた。

「……ここに来るのも久しぶりだな」

 夜空を見上げると、星が穏やかに瞬いている。七夕祭りの喧騒から少し離れたこの場所には、特別な静けさがあった。

「成!」

 ふいに名前を呼ばれ、振り向くと、瑞希が駆け寄ってきた。彼女は短冊を手に持ち、小さく息を弾ませている。

「遅かったな」

「ごめんごめん、人混みがすごくて……」

 成は軽く肩をすくめた。「まぁ、仙台七夕祭りだしな」

「そうそう。でも、ここは静かでいいね」

 瑞希は短冊を見つめながら微笑んだ。

「何を書いたんだ?」

「……秘密」

「なんだよ、それ」

「まぁ、あとで教えてあげるかもね」

 星降る夜に願うこと

 二人は瑞鳳殿の本殿へと歩いていく。夜風がそっと木々を揺らし、竹の葉がさやさやと音を立てていた。

「成は、願い事とかしないの?」

「願うより、やる方が早いからな」

「ふふっ、それっぽいこと言うね」

 瑞希は手に持っていた短冊をそっと結びながら、「でもね」と続けた。

「今日は特別な日だから、願ってもいいんじゃない?」

 成はしばらく黙っていたが、やがて夜空を見上げた。

「……そうかもな」

「でしょ?」

 瑞希は満足そうに微笑む。「じゃあ、成の願い事も聞かせてよ」

「……内緒だ」

「えぇ、ずるい!」

 成は少しだけ笑った。「まぁ、そのうち分かるさ」

 淡い告白

 しばらく静かに星を眺めていた瑞希が、ぽつりと呟いた。

「ねぇ、成」

「ん?」

「……今日は、ありがとう」

「急にどうした?」

「ただ、そう思っただけ」

 成は瑞希の横顔を見た。七夕の灯りが、彼女の瞳に柔らかく映っている。

「……そうか」

 夜空には、流れ星がひとつ、淡く光って消えていった。

 ——星降る夜の淡い告白。

 それは、言葉にしなくても伝わる、静かな想いだった。

(第十五章 完)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ