第十五章「星降る夜の淡い告白」
仙台の街に、七夕の光が揺れていた。笹飾りが夜風にそよぎ、優しい灯りが通りを照らしている。
成は、瑞鳳殿の静かな参道をゆっくりと歩いていた。
「……ここに来るのも久しぶりだな」
夜空を見上げると、星が穏やかに瞬いている。七夕祭りの喧騒から少し離れたこの場所には、特別な静けさがあった。
「成!」
ふいに名前を呼ばれ、振り向くと、瑞希が駆け寄ってきた。彼女は短冊を手に持ち、小さく息を弾ませている。
「遅かったな」
「ごめんごめん、人混みがすごくて……」
成は軽く肩をすくめた。「まぁ、仙台七夕祭りだしな」
「そうそう。でも、ここは静かでいいね」
瑞希は短冊を見つめながら微笑んだ。
「何を書いたんだ?」
「……秘密」
「なんだよ、それ」
「まぁ、あとで教えてあげるかもね」
星降る夜に願うこと
二人は瑞鳳殿の本殿へと歩いていく。夜風がそっと木々を揺らし、竹の葉がさやさやと音を立てていた。
「成は、願い事とかしないの?」
「願うより、やる方が早いからな」
「ふふっ、それっぽいこと言うね」
瑞希は手に持っていた短冊をそっと結びながら、「でもね」と続けた。
「今日は特別な日だから、願ってもいいんじゃない?」
成はしばらく黙っていたが、やがて夜空を見上げた。
「……そうかもな」
「でしょ?」
瑞希は満足そうに微笑む。「じゃあ、成の願い事も聞かせてよ」
「……内緒だ」
「えぇ、ずるい!」
成は少しだけ笑った。「まぁ、そのうち分かるさ」
淡い告白
しばらく静かに星を眺めていた瑞希が、ぽつりと呟いた。
「ねぇ、成」
「ん?」
「……今日は、ありがとう」
「急にどうした?」
「ただ、そう思っただけ」
成は瑞希の横顔を見た。七夕の灯りが、彼女の瞳に柔らかく映っている。
「……そうか」
夜空には、流れ星がひとつ、淡く光って消えていった。
——星降る夜の淡い告白。
それは、言葉にしなくても伝わる、静かな想いだった。
(第十五章 完)