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第149章 星の海に漂う二人

 名古屋市、名古屋テレビ塔の展望デッキ。夜景が一望できるその場所で、太陽はガラス越しに煌めく街を見下ろしていた。普段は他者の感情に敏感で、細かいところまで気が回るが、時々話が脱線してしまう自分が、今日は少しだけ嫌になっている。

「どうして、こうなっちゃうんだろうな…」

 先日のプロジェクト会議で、アイデアを提案した際に話が脱線してしまい、結局まとまらなかった。自分では場を和ませようとしていたのだが、結果として真剣な話題を邪魔してしまい、メンバーの表情が曇ったのを感じた。自分の配慮が逆効果になってしまったことが、心に引っかかっている。

「太陽?」

 振り返ると、侑子が立っていた。彼女は周囲に良い影響を与え、自分の考えを他者にしっかり伝える力を持っている。そんな彼女の存在は、太陽にとって頼りがいのあるパートナーだ。

「どうしてここに?」

「さっき、みんなで話してたの。太陽が元気ないって。ここが好きって聞いてたから、来てみたんだ」

 太陽は少し笑って、「やっぱりバレてたか」と呟いた。侑子は隣に立ち、同じように夜景を見下ろした。

「プロジェクトのこと、まだ気にしてるんでしょ?」

「ああ…俺、場を盛り上げようと思ったんだけど、逆に邪魔してたみたいでさ。真面目に話し合う場で、余計なこと言っちゃって…」

 侑子は軽く頷き、「太陽って、優しすぎるから空気を読みすぎちゃうんだよね」と言った。その言葉に、太陽は少し戸惑った。

「空気を読みすぎる?」

「うん。みんなが緊張してるときに、少しでも和ませたいって気持ちはわかるけど、その場に合わないと逆効果になっちゃうでしょ?」

 太陽はその言葉にハッとして、考え込んだ。確かに、緊張を和らげようとしたが、タイミングを間違えたことで逆にみんなを混乱させてしまったのかもしれない。

「俺、楽しくしようとしてたんだけど、逆に空気を壊してたんだな…」

「でもね、太陽が明るくしてくれるのは、みんなありがたく思ってると思うよ。ただ、場面を見極めることがもう少しできれば、もっとみんなに響くんじゃないかな」

 太陽は少しうつむき、「自分のせいで話がまとまらなかったと思うと、なんか申し訳なくてさ」と呟いた。

「でも、それって太陽がみんなを思っての行動だから、悪いわけじゃないんだよ。ただ、もう少し話が進んでから冗談を入れるとか、タイミングを工夫するだけで全然違うと思う」

 太陽はその言葉に救われた気がして、心が少し軽くなった。侑子の言葉が、自分の焦りを柔らかく包み込んでくれた。

「ありがとう、侑子。君がいてくれて、本当に助かるよ」

「どういたしまして。でも、また迷ったらちゃんと相談してね。太陽が笑顔じゃないと、みんなも心配しちゃうから」

 太陽は少し照れくさそうに、「頼りにしてる」と答えた。侑子はその言葉に笑って、「私も太陽が元気だと嬉しいから」と言った。

「次のミーティングでは、少し様子を見ながら発言してみるよ。焦って空気を変えようとしなくても、みんなで考えながら進めばいいんだな」

「うん、そのほうが自然だと思う。太陽がリラックスしてくれれば、みんなもつられて和むから」

 二人はしばらく無言で夜景を見つめていた。名古屋の街に灯る無数の光が、まるで星の海のように輝いている。

「また、ここに来ような。次は、うまくいった話をしに来るよ」

「うん、その時は一緒に夜景を見ながら話そうね」

 ふと、侑子が太陽の手に触れた。その瞬間、太陽は心臓がドキッと高鳴るのを感じた。

「侑子…?」

「なんかね、太陽が落ち込んでると、私も元気がなくなるんだよね。だから、もっと自分を大事にしてほしい」

 太陽はその言葉に驚きながらも、手の温もりが心地よくて、少しだけ力を込めて握り返した。

「ありがとう。君の言葉、ちゃんと胸に刻んでおくよ」

「うん、太陽らしくね」

 星の海に漂う二人。名古屋の夜景が、まるで二人を祝福するように輝きを増していた。

 触れた手のぬくもりが、これからも続くようにと願いながら、太陽は侑子と共にゆっくりと歩き出した。

 星の海に漂う二人。それは、侑子がくれた希望の瞬間だった。

 終


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