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第147章 触れた瞬間の電流

 沼津市、千本浜海水浴場の夕暮れ。冬の冷たい潮風が砂浜を吹き抜け、波音が静かに響いている。旭陽は防波堤に腰掛け、じっと沖を見つめていた。普段は静かな場所を好み、冷静に物事を進めるタイプだが、短期集中型ゆえに勢い余ってしまうこともある。

「また、やってしまったな…」

 先日のチームミーティングで、旭陽が作った計画が実現性に乏しいと指摘され、議論が紛糾した。自分の意見を通そうと短期決着を求めたが、他のメンバーの意見を無視してしまい、結果的に軋轢を生んでしまったのだ。

「旭陽?」

 振り返ると、そこには楓夏が立っていた。彼女は堂々としており、視点を広げて物事を考えるタイプだ。いつも冷静で、メンバーが悩んでいるときは必ず声をかける優しさを持っている。

「どうしてここに?」

「さっき、会社で旭陽が元気ないって聞いてさ。ここが好きだって言ってたから、もしかしてと思って」

 旭陽は少し笑って、「そんなに分かりやすいか」と呟いた。楓夏は隣に腰掛け、同じように海を見つめた。

「プロジェクトのこと、まだ気にしてるんでしょ?」

「ああ…俺、どうしても短期で成果を出したくて、焦ってたんだ。結果的に、みんなの意見を無視して強引に進めようとしてしまった」

 楓夏は軽く頷き、「旭陽って、やっぱり集中しすぎちゃうところがあるよね」と言った。その言葉に、旭陽は少し戸惑った。

「でも、結果を出さないと意味がないと思ってさ。ダラダラと議論しても仕方ないだろ?」

「うん、それは分かるよ。でも、成果を出すためには、チーム全員が納得して動かなきゃいけないでしょ?短期決着ばかり求めると、逆にみんなが置いてけぼりになっちゃうかも」

 旭陽はその言葉にハッとして、考え込んだ。確かに、チームとして進めるべきなのに、自分だけが焦ってしまったのかもしれない。

「俺、急ぎすぎたんだな…もう少し時間をかけて、みんなの意見を整理すべきだった」

「そうだね。でも、旭陽が頑張ってたのはみんな分かってると思うよ。ただ、その勢いにみんながついてこれなかっただけで」

 旭陽は少し息をつき、冷たい風を感じながら反省した。

「次は、もっとチーム全体で話し合うよ。自分が正しいって思っても、みんなが同じ方向を向けなきゃ意味がないから」

 楓夏は微笑んで、「その考え方、すごく良いと思う」と言った。その笑顔に、旭陽は少しだけ救われた気がした。

「ありがとう、楓夏。君が話してくれて、本当に助かったよ」

「どういたしまして。私は旭陽が前向きになってくれると嬉しいんだ」

 旭陽はその言葉に少し照れくさそうに笑った。「俺、普段は短気でせっかちだからさ、こういうときに柔軟に考えられる楓夏が羨ましいよ」

「私も、決めきれないことが多くて困るときあるけどね。でも、旭陽がしっかりリーダーシップを取ってくれるから、助かってるよ」

 二人はしばらく黙って波音を聞きながら、夕焼けが海を赤く染めるのを見つめていた。

「また、ここに来ような。次は、成功した報告をしに来るよ」

「うん、その時は二人でお祝いしよう」

 ふと、楓夏が手を伸ばし、旭陽の手にそっと触れた。その瞬間、旭陽は電流が走るような感覚を覚えた。

「…楓夏?」

「うん、なんかね、旭陽が少し元気になってくれて嬉しくて」

 その触れた手の温かさが、冷たい風の中でも確かに感じられた。旭陽は少し戸惑いながらも、その手を握り返した。

「ありがとう、楓夏。君がいてくれて、本当に良かった」

「私も。これからも一緒に頑張ろうね」

 夕暮れの光が二人を包み込み、触れた手から伝わる温かさが、旭陽の心を優しく満たしていった。短期的な成果に焦るだけでなく、チームとして進むためにどうすべきかを、もう一度考え直そうと思えた。

 触れた瞬間の電流。それは、楓夏がくれた勇気と温もりだった。

 終


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