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第144章 笑顔が織りなすハーモニー

 浜松市、浜名湖の湖畔。冬の寒さが残る中、穏やかな波が岸辺を優しく打ちつけている。琉斗は防波堤に腰掛け、じっと湖面を見つめていた。誠実で信頼されやすい性格だが、周囲の期待に応えようとしすぎるあまり、自分を追い込んでしまうことがある。

「なんでこんなに空回りするんだろう…」

 つい先日のプロジェクトで、リーダーとしてメンバーを引っ張ったつもりだったが、結果として意思疎通がうまくいかず、計画が崩れてしまった。自分が頑張ればうまくいくと思い込んでいたが、結果は逆効果だった。

「琉斗?」

 振り返ると、そこには綾香が立っていた。彼女は責任感が強く、物事に対して一貫して努力するタイプ。落ち着きがあり、冷静に物事を判断できるため、琉斗にとって信頼できるパートナーでもある。

「どうしてここに?」

「さっき、会社で琉斗が元気ないって聞いてさ。なんとなくここかなって思って」

 琉斗は少し笑って、「分かりやすいかな」と苦笑した。綾香は隣に腰掛け、同じように湖面を見つめた。

「プロジェクトのこと、まだ気にしてるんでしょ?」

「ああ…俺がリーダーとしてしっかりしなきゃって思ってたけど、結果としてみんなの意見を無視しちゃってたかもしれない」

 綾香は少し考え、「琉斗って、すごく誠実で真面目だから、自分が引っ張らなきゃって思っちゃうんだよね」と言った。その言葉に、琉斗は少し戸惑った。

「でも、リーダーなんだから、みんなをまとめるのは俺の役割じゃないか?」

「うん、それは間違ってないよ。でも、まとめるって一人で頑張ることじゃないんじゃないかな。みんながついてきやすいように、歩調を合わせるのも大事だと思う」

 琉斗はその言葉にハッとして、考え込んだ。確かに、自分一人が頑張りすぎて、結果的に他のメンバーがついてこられなかったのかもしれない。

「俺、周りを気にする余裕がなかったのかもな…」

「そうかもね。でも、琉斗が一生懸命だったのはみんな分かってると思うよ。ただ、その頑張りが少し空回りしちゃっただけで」

 琉斗はその言葉に少し笑みを浮かべ、「俺って、不器用だよな」とポツリと呟いた。

「不器用でもいいじゃない。大事なのは、そこからどう変わっていくかだよ」

「そうだな…俺、もっとみんなとコミュニケーション取らなきゃって思ったよ。自分一人が頑張ればいいって考えが間違ってた」

 綾香は微笑みながら、「そうやって気づけたんだから、もう大丈夫だよ」と優しく励ました。琉斗はその言葉に救われた気がして、湖面に映る自分の顔を見つめ直した。

「次は、もっとチーム全体で話し合って進めるよ。自分の意見だけじゃなくて、みんなの声をちゃんと聞く」

「それがいいと思う。琉斗のその素直さが、きっとチームを良い方向に導いてくれるよ」

 琉斗は深呼吸し、冷たい空気を吸い込んだ。心の中のもやもやが、少しずつ晴れていく感覚があった。

「ありがとう、綾香。君が話してくれたから、前を向けそうだ」

「大丈夫だよ。私は琉斗の味方だから。困ったときは頼ってよ」

 琉斗は少し照れながら、「頼りにしてる」と答えた。綾香はその言葉に嬉しそうに笑った。

「また、ここに来ような。次は、プロジェクトが成功した話をしよう」

「うん、そのときは私がコーヒー持ってくるから、一緒に飲もう」

 二人はゆっくりと湖畔を歩き出した。冷たい風が吹き抜けるが、隣にいる綾香の存在が心を温めてくれる。

「綾香って、どうしてそんなに落ち着いていられるんだ?」

「私も、焦ることはあるけど、そのたびに一歩引いて考えるようにしてるの。焦っても状況は変わらないし、冷静にならなきゃ判断を誤るから」

 琉斗はその考え方に感心しながら、「俺も、もっと落ち着いて考えられるようになりたい」と言った。

「大丈夫。琉斗なら絶対できるよ。ゆっくりでいいから、自分を責めないでね」

 浜名湖の水面がキラキラと光り、夕日が少しずつ沈んでいく。その景色が、どこか希望を感じさせるようだった。

「ありがとう、綾香。本当に感謝してる」

「こちらこそ、琉斗が前を向いてくれて嬉しいよ」

 二人は並んで歩きながら、心の中に小さな温かさを育てていた。笑顔が織りなすハーモニーが、未来への一歩を後押ししてくれているようだった。

 終


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