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第141章 歩き出す勇気

 岐阜県、岐阜城の展望台。冷たい風が吹き抜け、長良川が遠くに見える。拓也は展望台の手すりに寄りかかり、眼下の景色をぼんやりと眺めていた。彼は、常に目標に真剣に取り組むタイプであり、平和を望む気持ちが強い。しかし、そんな性格が逆に自分を追い込むことも多い。

「どうしてうまくいかないんだろう…」

 数日前、プロジェクトでの意見が他のメンバーと食い違い、チーム全体がギクシャクしてしまった。自分の意見が通らなかったことで落胆し、自信を失っている自分がいる。自分が正しいと信じて貫いたつもりだったが、それが逆に仲間を傷つけてしまったのだ。

「拓也?」

 振り返ると、梨沙が立っていた。彼女は物静かで、他人に頼ることを嫌う一面があるが、その分、自分の意見を大切にしている。拓也にとって、仕事でもプライベートでも支え合うことが多い大切な仲間だ。

「どうしたの、ここにいるなんて珍しいね」

「いや、ちょっと考えごとをしてたんだ」

 梨沙は拓也の隣に立ち、同じように長良川の流れを見つめた。冷たい風が二人の髪を揺らし、静かな時間が流れる。

「プロジェクトのこと、まだ気にしてるの?」

「ああ…自分の意見を通そうとしたけど、みんなの反応が悪くてさ。俺が無理やり引っ張ってしまったのかもしれない」

 梨沙は少し考えて、「拓也って、真面目すぎるんだよね」と言った。その言葉に、拓也は少し驚いた表情を見せた。

「真面目すぎる?」

「うん。拓也の考え方って、正しいけど、時々それが押し付けに見えるときがあるのかも」

 拓也はその言葉に少し反省しながら、「そうか…俺、もっと柔軟に考えないとダメだったのか」とつぶやいた。

「でも、それって拓也が一生懸命だからだよね。自分が信じたことを曲げたくないって気持ち、すごく分かる」

「だけど、結局それでみんなを混乱させてしまったら意味がないんだよな…」

 梨沙はふっと息をつき、「でも、間違ったって思えたなら、もう一歩進めるってことだよ」と優しく言った。その言葉に、拓也の心が少しだけ軽くなった。

「俺、失敗するのが怖かったんだ。だから、正解を求めすぎて、みんなを無視してたのかもしれない」

「それでも、拓也の真剣さは伝わってると思うよ。だから、もう少しみんなの意見も取り入れたら、もっと良いチームになるんじゃないかな」

 拓也はその言葉に頷き、「そうだな。俺一人が頑張っても意味がない。チーム全体で動かなきゃ」と少し笑みを浮かべた。

「それでこそ、拓也だよ。何でも一人で抱え込まないで、もっと頼ってもいいんだよ」

 拓也は少し照れくさそうに、「ありがとう、梨沙」と呟いた。梨沙はその言葉に安心したように微笑んだ。

「次の会議では、もう少しみんなの意見を聞いてみるよ。俺のやり方が正しいって決めつける前に、ちゃんと話し合う」

「うん、そのほうが拓也らしいと思う」

 二人はしばらく無言で景色を眺めていた。冬空に浮かぶ白い雲が、少しずつ流れていく。拓也の心にも、新しい風が吹き込んだようだった。

「梨沙って、どうしてそんなに冷静でいられるんだ?」

「私も悩むことはあるけど、焦っても仕方ないからね。自分を信じて、少しずつ進めばいいって思ってる」

 拓也はその考え方に感心しながら、「俺も、もう少し落ち着いて考えられるようになりたいな」と言った。

「きっとできるよ。拓也は真面目すぎるから、自分を責めすぎないでね」

「そうか…ありがとう、本当に」

 岐阜城の展望台から見える景色が、どこか前よりも明るく見えた。拓也は、歩き出す勇気を取り戻し、もう一度やり直してみようと心に決めた。

「また、ここに来ような。次は、うまくいった報告ができたらいい」

「うん、その時は一緒にお祝いしよう」

 二人は展望台を後にし、ゆっくりと階段を降りていった。冷たい風が頬を刺すが、その中にも確かな温もりが感じられた。

 歩き出す勇気。それは、梨沙がくれた小さな希望だった。

 終


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