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第138章 心を繋ぐ雪解け

 長野県、善光寺の境内。白く染まった石畳が、冬の日差しに反射して輝いている。悠人は本堂前の階段に腰を下ろし、手袋を外して冷たい空気を感じていた。几帳面であり、計画的に物事を進める彼だが、最近はどうも心がざわついている。

「何がいけなかったんだろう…」

 数日前、プロジェクトでの意見が上司に否定され、メンバーの士気も下がってしまった。自分なりに考えて進めた計画が、周囲に理解されなかった悔しさが胸に残っている。自分の進め方が間違っていたのか、それとも説明不足だったのか、答えが出ないまま時間だけが過ぎていく。

「悠人?」

 振り返ると、そこには千晶が立っていた。彼女は前向きで、どんな状況でも笑顔を絶やさないタイプ。悠人の同僚であり、時折意見をぶつけ合うこともあるが、共に努力する仲間だ。

「千晶か…どうしてここに?」

「さっき、会社で見かけたけど、すぐにどこか行っちゃったから。なんか元気なさそうだったからさ」

 悠人は少し苦笑して、「やっぱり、わかりやすいか」と呟いた。千晶は隣に腰を下ろし、手袋をはめ直した。

「プロジェクトのこと、まだ気にしてるの?」

「ああ…俺なりに考えて進めたけど、結果としては空回りだったのかもなって思ってさ」

 千晶は静かに頷き、「悠人って、いつも完璧を求めすぎてるよね」と言った。その言葉に、悠人は少し驚いた顔を見せた。

「完璧ってわけじゃないけど、できる限りの準備はしたかったんだ。それが、結局誰もついてこれなくて…」

「でもさ、それって悠人が自分で背負い込みすぎてたんじゃない?チームなんだから、もっと周りを頼っても良かったんじゃないかな」

 悠人はその言葉にハッとして、考え込んだ。確かに、自分がまとめ上げなければという意識が強すぎて、結果的に孤立してしまったのかもしれない。

「自分一人でやらなきゃって思ってたのかも。でも、チームでやる意味がなくなってたな…」

「そうだね。悠人の意見自体は間違ってなかったと思うよ。でも、それをどう共有するかが少し難しかったんじゃないかな」

 悠人は静かに息をつき、千晶の顔を見た。彼女の言葉は、どこか優しく、確信を持っているように聞こえた。

「ありがとう、千晶。俺、自分のやり方を見直してみるよ。みんなの力を信じて、一緒に進める方法を考えてみる」

「うん、そのほうが絶対いいよ。悠人一人が頑張っても、みんながついてこれなきゃ意味ないしね」

 悠人はその言葉に少し笑みを浮かべた。自分の弱さを認め、次に活かそうと思えたのは、千晶の率直な言葉があったからだ。

「でも、悠人がリーダーシップを取ってくれるから、私たちも頑張れるんだよ。それだけは忘れないで」

「そうか…そう言ってくれると、少し自信が出てきた」

 千晶は微笑んで、「もっと肩の力を抜いていいんだよ」と励ました。悠人は「わかってる」と答え、静かに立ち上がった。

「また、ここに来ような。次は、プロジェクトがうまくいった報告ができるように」

「うん、私も手伝うからさ。一緒に頑張ろうね」

 二人は境内を歩きながら、雪解けの道をゆっくりと進んだ。冷たい風が吹き抜けても、心の中には少しずつ温かさが戻ってきた。

「千晶ってさ、なんでそんなに前向きなんだ?」

「うーん、私も悩むことはあるけど、立ち止まってたらもったいないじゃん。だったら、次に進むために少しでも動いたほうがいいかなって思ってるんだ」

 悠人はその考え方に感心しながら、「俺も、もう少し柔軟に考えてみるよ」と言った。

「その意気だよ!悠人なら絶対大丈夫だから」

 境内を抜け、石畳の道を歩く二人。雪解けの水が流れる音が、どこか心地よく響いていた。

「ありがとう、千晶。君に話せて本当によかった」

「私も、悠人が少し元気になってくれて嬉しいよ。また困ったらいつでも話してね」

 悠人は静かに頷き、次に向けての一歩を踏み出した。心を繋ぐ雪解け、それは千晶が与えてくれた小さな希望の光だった。

 終


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