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第134章 消えない笑顔の痕跡

 金沢市、兼六園の静かな庭園。冬枯れの木々が立ち並び、石灯籠が薄明かりに照らされている。翔陽は雪吊りの縄を見上げながら、物思いにふけっていた。周囲と一緒に目標達成に向けて努力するタイプで、行動する前に熟考する慎重派だが、今日はどこか悩んでいる様子だ。

「やっぱり、ここにいたんだね」

 声をかけたのは美愛だった。外向的で活発な性格を持ち、結果を求めて行動する彼女は、翔陽の同僚でもあり良き相談相手だ。

「美愛か。どうしてここに?」

「さっき、会社で見かけたけど、なんか元気なさそうだったから気になってさ」

 翔陽は少し苦笑して、「バレてたか」と呟いた。

「どうしたの?何かあった?」

「いや、ちょっとな。プロジェクトが思った以上に難航してて。俺がまとめ役なんだけど、いざ意見をまとめようとすると、みんなの主張がバラバラでさ」

 美愛は「そっか」と頷き、翔陽の隣に腰掛けた。

「翔陽って、慎重に考えすぎるところあるよね。それが良いところなんだけど、時々、自分の意見を出すタイミングが遅れちゃうんじゃない?」

 翔陽は少し驚いた表情を見せたが、「確かに、そうかもしれない」と納得したように頷いた。

「チームで動くときって、意見がバラバラなのは当たり前だし、そこでリーダーがどうまとめるかが大事なんだよね」

「でも、俺がまとめすぎて、逆にみんなの意見を潰してしまってないか心配でさ」

 美愛は笑って「そんな心配性なとこも翔陽らしいけどね」と言った。

「確かにバランスは難しいよ。でも、翔陽がちゃんと聞いてくれてるって、みんな分かってると思うよ」

 翔陽は少し考えながら、「俺、もっとみんなに信頼されてるのかもな」と呟いた。

「そうだよ。だから、もっと自分に自信持っていいんだって」

 ふと、雪がちらつき始めた。美愛は手を伸ばして、ひらひらと落ちる雪を受け止めた。

「綺麗だね、雪って。冷たいけど、なんか心が洗われる気がする」

「そうだな。こうしてると、少し気持ちが楽になる」

 美愛は翔陽の顔を見て、「ほら、笑顔になってる」と嬉しそうに言った。

「そうか、笑ってたか?」

「うん。その笑顔、もっと見せてあげたらいいのに。普段から真面目すぎるんだから」

 翔陽は照れくさそうに頬をかいた。「そう簡単に笑えたら、苦労しないんだけどな」

「じゃあ、私がその笑顔を引き出してあげる。どうせなら、笑ってた方が元気出るし」

 美愛の無邪気な言葉に、翔陽は自然と笑ってしまった。彼女の前では、素直になれる自分がいることに気づいたのだ。

「ありがとう、美愛。君と話してると、悩んでたのがバカみたいだな」

「そう思えたならよかった。私も、翔陽が元気ないと落ち着かないからさ」

 二人は庭園の中を歩きながら、雪景色を楽しんだ。兼六園の池には雪が薄く積もり、その白さが静寂を際立たせている。

「今度、プロジェクトの報告が終わったら、またここに来ようか。もう少し暖かくなったら、桜が綺麗らしいよ」

「いいね。次は満開の桜を見に来よう」

 美愛が嬉しそうに頷き、「じゃあ、次は私が案内役ね」と張り切った。翔陽はその元気さに励まされ、もう一度前を向こうと決意した。

「また、こうして笑える時間を作ろうな」

「うん、絶対だよ。約束ね」

 二人は手を合わせて約束し、少し冷たい風を感じながら歩き出した。消えない笑顔の痕跡が、心の中にしっかりと刻まれていた。

 終


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