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第132章 君と交わした特別な約束

 富山市の富山城公園。冬の澄んだ空気が頬を冷たく刺し、木々の枝には雪が積もっている。真剣は城を見上げながら、深呼吸をしていた。彼は無愛想なところがあるが、他者との協力を通じて成功を分かち合うことを大切にしている。直感が鋭く、物事を見極める力があるものの、今日はその感覚が鈍っている気がしていた。

「やっぱり、あのやり方でよかったのか…」

 つい先日、チームのプレゼンで意見をまとめたが、うまく伝わらなかった。それが原因で少し落ち込んでいる自分に気づき、無意識にここまで歩いてきた。

「真剣?」

 振り向くと、そこには夏子が立っていた。楽天家でありながら、自分の強みを最大限に活かして行動するタイプの彼女は、寒さも気にせず、元気な笑顔を見せている。

「何してるの、こんなところで?」

「少し考え事をしてた。あのプレゼン、どうも腑に落ちなくてな」

 夏子は軽く首をかしげ、「真剣が落ち込むなんて珍しいね」と笑った。その言葉に、真剣は「別に落ち込んでるわけじゃない」と言い返しつつ、どこか素直になれない自分がもどかしい。

「うまくいかないことがあっても、次に繋がればいいじゃん。それに、真剣はちゃんとやってたよ」

「そうかもしれないが、俺にはもっとできたことがあった気がするんだ」

 夏子は少し考えて、「それって、完璧を求めすぎてない?」と尋ねた。その言葉に、真剣はハッとした。

「完璧じゃなくてもいいんだよ。真剣が一生懸命考えて出した結果なら、まずは自分を信じなきゃ」

「でも、俺のやり方が間違ってたらどうする?」

「間違ってたら、次に直せばいい。大事なのは、その経験をどう活かすかじゃない?」

 真剣は無意識に拳を握りしめ、少しずつ力が抜けていくのを感じた。夏子の言葉は、いつも前向きで、自分が固執しているものを軽やかに吹き飛ばしてくれる。

「お前って、本当に楽天的だよな」

「それが私の強みだからね。でも、真剣のその真面目さも大事だと思うよ」

 ふと、城の天守閣を見上げると、雪の白さが青空に映えて美しかった。

「そうだ、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど」

「何だ?」

 夏子はバッグから小さなノートを取り出し、「次の企画で意見をまとめるんだけど、真剣のアイデアが欲しいんだ」と言った。

「俺でよければ、手伝うけど…」

「もちろん。だって、真剣の意見っていつも的確だから」

 その言葉に、真剣は少し照れたように目をそらした。無愛想な自分を理解し、まっすぐに頼ってくれる夏子が、少しだけ特別に感じた。

「分かった。じゃあ、次はもっと自信を持ってみるよ」

「うん、その意気だよ!君と交わした特別な約束だから、ちゃんと守ってね」

「約束って、そんな大げさな…」

 夏子はクスクスと笑いながら、「約束って言ったほうが気合が入るでしょ?」と軽やかに返す。

 真剣は少しだけ肩の力が抜け、冷たい空気が心地よく感じられた。どんなに失敗しても、それを糧にして進んでいく。それが彼にとっても、新しい気づきだった。

「夏子、ありがとうな。お前のその前向きさに救われたよ」

「いいのいいの。私も、真剣が元気ないと心配だからさ」

 二人は公園を歩きながら、他愛のない話を続けた。雪がちらちらと舞い始め、真剣はその光景を見つめながら、次はもっと自分を信じて行動しようと心に決めた。

「また、ここで打ち合わせしような」

「うん、次はもっと暖かい日がいいな」

 二人の声が冬空に響き、やがて静かな公園に溶けていった。冷たい空気の中に、少しだけ温かさを感じたひとときだった。

 終


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