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第131章 心の奥に秘めた光

 富山県、津城公園。冬の冷たい風が吹き、枯れ葉が地面を舞っている。光瑠は公園のベンチに腰掛け、手を擦り合わせていた。日々努力を重ね、他者の意見を尊重しながら問題解決を図る彼だが、今日はどこか浮かない顔をしている。

「寒いな…」

 コートの襟を立て、冷たい空気を吸い込む。保守的な性格もあって、いつも安全策を優先しているが、最近のプロジェクトでは大胆さが足りないと指摘を受けたばかりだ。自分のやり方が間違っているのかもしれないという不安が、心を重くしている。

「光瑠!」

 呼びかける声に顔を上げると、ミズキが息を切らしながら駆け寄ってきた。彼女は短気で感情的になりがちな一面があるが、言葉で気持ちを伝えるのが得意だ。そんな彼女の真っ直ぐな姿勢が、光瑠にはまぶしく映る。

「どうしたんだ、急に」

「さっき、会社で光瑠が落ち込んでたって聞いて…やっぱりここにいたね」

 ミズキは隣に腰掛け、寒さに震えながらも「やっぱり外は冷えるね」と笑った。

「いや、ちょっと考えごとしてただけだよ」

「嘘。光瑠って、悩むと必ずここに来るでしょ?」

 図星を突かれ、光瑠は苦笑いを浮かべた。確かに、津城公園は彼の癒しの場所だ。

「最近、プロジェクトがうまく進まなくてさ。俺がもっと強気に出ればいいのか、でもそれで失敗したらどうしようって考えてしまって」

 ミズキはうなずきながら、「光瑠らしいね」と微笑んだ。

「それって、光瑠が責任感強すぎるからじゃない?安全策を取るのも大事だけど、時にはリスクを取る勇気も必要だよ」

「分かってるんだけどさ…自分の意見を押し通すのが怖いんだ。もし間違ってたらって思うと」

 ミズキはそっと光瑠の手に触れ、「間違ってもいいんだよ。それが努力の証だから」と言った。その温かさに、光瑠は少しだけ心がほぐれていくのを感じた。

「ミズキって、すごいな。どうしてそんなに前向きなんだ?」

「私だって怖いときあるよ。でも、黙ってたら伝わらないでしょ?だから、どんなに短気でも、ちゃんと自分の意見を言うようにしてるの」

 光瑠はその言葉に少し驚き、改めて彼女の強さを感じた。自分の気持ちを正直に言うこと、それがミズキの良さだ。

「俺も、もう少し自信を持ってみようかな。安全ばかり考えていたら、何も変わらないもんな」

「そうだよ。光瑠の意見はしっかりしてるんだから、自分を信じてみて」

 光瑠は小さく息を吐き、冬の空を見上げた。雲の切れ間から、わずかに光が差し込み、公園を淡く照らしている。

「なんか、少し元気が出たよ。ありがとう、ミズキ」

「私も、光瑠が悩んでる姿は見たくないからね。元気でいてほしいの」

 光瑠はその言葉に少し照れくさそうに笑い、「じゃあ、次のミーティングで思い切って意見を言ってみるよ」と決意を口にした。

「それがいい。光瑠なら絶対大丈夫だよ」

 二人はしばらくベンチに座り、静かな冬の公園を眺めていた。ふと、光瑠は「ミズキといると、不思議と勇気が出る」と呟いた。

「それ、褒めてる?」

「もちろん。君みたいに正直で、まっすぐな人がいると、俺も頑張らないとって思うんだ」

 ミズキが少し赤くなって「変なの」と言いながらも、どこか嬉しそうだった。光瑠の胸の中には、心の奥に秘めた光が確かに灯っているのを感じていた。

「また、ここに来ような。次は、成功した話ができるといいな」

「うん、待ってるね。そのときは私も報告があるかもしれないし」

 冷たい風が吹き、二人は肩を寄せ合った。心に宿った小さな光が、確かな温かさを持って未来を照らしているようだった。

 終


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