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第130章 小さな勇気が生んだ奇跡

 新潟市の萬代橋。川面に映る街の灯りが揺らめき、冷たい風が吹き抜けている。太郎は橋の欄干に寄りかかり、ゆっくりと川を見つめていた。せっかちな性格の彼は、何事も素早く判断しがちだが、今日は珍しく足を止めている。

「自分に厳しく、他人には優しく。それが俺のやり方だと思ってたけど…」

 仕事での失敗が頭をよぎる。周りを急かしすぎて、チームの空気を悪くしてしまったのだ。トラブルを避けるために指示を出しているつもりが、逆に緊張を生んでしまった。

「やり方、間違ってたのかな…」

 独り言が風に消えたそのとき、ふと声をかけられた。

「太郎?」

 振り返ると、美智乃が立っていた。彼女は自分を深く理解し、成長を促すタイプであり、他者と共に目標達成に向けて努力する姿勢が自然と身についている。

「美智乃、どうしてここに?」

「今日、仕事で落ち込んでるって聞いたから、気になって。もしかしてここかなって思ってたんだ」

 太郎は少し苦笑し、「なんか、恥ずかしいところ見られたな」とぼそりとつぶやいた。

「そんなことないよ。誰だって悩むことはあるんだから」

 美智乃は太郎の隣に立ち、川の流れを一緒に見つめた。

「さっき、ミーティングで急かしすぎたみたいでさ。みんながピリピリしてるのが分かってたのに、どうしても止められなかったんだ」

「うん、それは太郎の責任感が強いからじゃない?でもね、少しだけ歩調を合わせてみてもいいかもしれないよ」

「歩調を合わせる?」

「うん。チームって、速さだけじゃなくて、同じ方向を向いてるかが大事だから」

 太郎はその言葉にハッとした。確かに、自分が正しいと思う方法で進むことに必死で、周りを見渡す余裕がなかった。

「俺、焦りすぎてたかもな」

「でも、太郎の情熱はすごく伝わってるよ。だから、少しだけ柔らかく伝えてみたらどうかな?」

 美智乃の柔らかな声が、心に染み渡るようだった。太郎は素直にうなずき、「確かに、もっとみんなの意見を聞かないとな」と思った。

「私もね、太郎が頑張っているのを見て、自分ももっとしっかりしないとって思うんだ。だから、そんなに自分を責めないでほしいな」

 太郎は少し照れながら、「ありがとう」と呟いた。美智乃の優しさが、固くなっていた心を溶かしていく。

「ねぇ、太郎。ちょっと歩かない?」

「いいな、少し冷えたし、歩こうか」

 二人は萬代橋を渡り、新潟市美術館の方へ向かって歩き出した。美智乃がふと、「太郎って、せっかちだけど、実はすごく慎重だよね」と言った。

「慎重?俺が?」

「うん。失敗を恐れて、だからこそ急いでしまうんじゃない?」

 太郎は少し驚き、考え込んだ。自分に厳しくすることで、失敗しないようにしている。それが、せっかちさに繋がっていたのかもしれない。

「そうか…俺、失敗が怖くて急いでたのか」

「でも、失敗するのも大事だと思うよ。その一つ一つが、成長に繋がるんだから」

 太郎はその言葉に勇気をもらった。小さな勇気を持って、一歩ずつでも進んでいけばいい。自分を責めすぎないこと、それもまた成長の一環だ。

「ありがとう、美智乃。なんか、気が楽になったよ」

「そうなら良かった。これからも、一緒に頑張っていこうね」

 太郎は笑顔を浮かべ、「ああ、次はもっと上手くやってみせる」と前向きに誓った。

 歩きながら、美智乃が「次のプロジェクトも一緒にやろうね」と言うと、太郎は「もちろん」と答えた。二人は足を揃え、夜風の中を歩き続けた。

 月が川面に映り、その光が二人を優しく照らしている。太郎は心の中で、小さな勇気が生んだ奇跡を感じていた。それは、美智乃がそばにいてくれたおかげだ。

「また、この橋を渡って帰ろうな」

「うん、次はもっとゆっくり歩こう」

 二人は自然な笑顔で、夜の街を歩いていった。風に乗って、二人の笑い声が静かな夜に響いた。

 終


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