第124章 消せない傷と癒しの言葉
相模原公園の広々とした芝生広場。晃平はベンチに腰掛け、曇り空を見上げていた。木々が風に揺れ、サラサラと音を立てている。批判的な思考を持ちながらも、他者と共に取り組んで成果を出すことに長けている彼。しかし、今日は少し心が重かった。
「また失敗か…」
つい先ほどまで、チームの会議で意見が対立し、気まずい空気が流れたばかりだ。自信を持って判断した意見が受け入れられず、仲間と衝突してしまったのだ。
「考えすぎかもしれないけど…」
晃平は深く息を吐いた。自分の考えに固執しすぎたのか、それとも仲間の意見を軽視してしまったのか。物事を前向きに捉えようとしても、胸に残る違和感が消えない。
「晃平?」
ふと声をかけられ、顔を上げると、そこには仁美が立っていた。革新的な考えを持ち、成長を大切にする彼女は、晃平の同僚であり、時には意見をぶつけ合う間柄だ。
「ここにいたのね。会議のあと、少し気になって」
「仁美か…悪かったな、さっきの会議。つい強く言いすぎた」
仁美は少しだけ笑って「気にしてないよ」と答えた。彼女は晃平の隣に腰を下ろし、しばらく黙って風の音を聞いていた。
「晃平、あなたが真剣に考えてくれてるのは分かってる。でも、時にはもう少し柔らかく意見を伝えたほうがいいかもね」
「分かってるんだ。でも、俺なりに最善を尽くそうとしてるんだけど、うまくいかない」
仁美は優しく微笑み、「それが晃平らしいところだよ」と言った。晃平は少し驚き、仁美を見つめた。
「俺らしい?」
「うん。あなたは責任感が強くて、いつもみんなのために動こうとしてる。でも、その頑固さが、たまに逆効果になることもある」
晃平は少し反省したようにうつむき、「確かにな」と呟いた。
「でもね、私、そんな晃平が嫌いじゃない。むしろ、あなたのその真っ直ぐなところが、みんなにとって頼りになるんだよ」
その言葉に、晃平の胸が少しだけ軽くなった。仁美が「ごめん」と言って隣に座ると、二人の間にほのかな温かさが流れた。
「俺、もっと柔軟にならないとダメだな」
「そう思うなら、次は少し歩み寄ってみたら?失敗しても、その先で学べばいいんだし」
晃平はうなずきながら、「ありがとう、仁美」と素直に言葉にした。彼女の存在が、晃平にとって心の支えになっていることを実感する。
「そういえば、前に晃平が言ってたこと、私なりに考えてみたんだ。みんなの意見をまとめる方法、もう少し工夫してみたらどうかなって」
仁美が持ってきたノートには、チームミーティングを改善するためのアイデアが書かれていた。晃平はそれを受け取りながら、少し照れくさそうに微笑んだ。
「さすがだな。俺が固執してた部分を、ちゃんと整理してくれてる」
「一緒に考えればいいんだよ。あなたが一人で抱え込む必要なんてないんだから」
晃平はノートを大事そうに閉じ、そっと息をついた。自分だけでどうにかしようとしていたが、チームという存在を忘れていたことに気づいた。
「今度の会議では、みんなの意見をちゃんと聞いてみるよ」
「それがいいと思う。晃平なら、きっとできるから」
仁美が励ますように言い、晃平もまたその言葉に勇気をもらった。ふと見上げると、曇り空からわずかに光が差し込んできた。
「なんか、君と話すといつも助けられるよ」
「私もだよ。お互い、助け合えばいいんじゃない?」
晃平はその言葉に頷き、もう一度深呼吸をした。心に残っていた傷が、少しずつ癒されていくようだった。
「またここに来よう。次はもっと前向きな話をしながらさ」
「うん、楽しみにしてる」
風が二人の間を抜け、草の香りを運んできた。晃平はその風に包まれながら、これからも仲間と共に歩んでいくことを強く心に誓った。
終