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8

 放課後。

 待ち合わせの場所として指定されたのは、校舎裏のとある一角。

 ルミナス学院の周囲は森によって囲まれており、指定された場所は森と校舎の壁に挟まれた人気の無い場所だ。


 声を上げ、助けを呼んでも誰の耳にも届かない。

 生徒達の間で、密かに伝わっている処刑場。

 ここに気に入らない人物を呼び寄せ、気が済むままに暴力を振るう。それもまた、ルミナス学院の伝統だ。


「てっきり怖がってやって来ないと思っていたけれど……まあ、その度胸だけは評価してあげても良いわよ」


 馬鹿にした言葉を、吐き捨てるように口にしたのは1人の女子生徒。

 背後を振り返れば、そこに居たのは幾人もの取り巻きを連れてやって来た、ツインドリルの女子生徒だった。


 淡い光沢を放つ、銀色の髪。縦巻きのロールは先端に進むにつれて、ドリルを彷彿とさせる鋭利な先端を覗かせる。

 美しい容姿。

 されど、何処か背筋が寒くなるような魅力を放つ。


 爬虫類を彷彿とさせる鋭い瞳に、血のように真っ赤な唇。服装はアリサと同じなのに、何処か根本的に違うと思い知らされる。

 悪役令嬢。


 正に、そんな言葉が相応しい少女だった。

 ――カミーラ・フォン・エヴァルドレッド。

 アリサを虐めていた元凶だ。

 原因としては、カミーラを差し置いて悪目立ちしてしまった事だろうか? 


「さて。ここに来たって言う事は、貴方が何をするのかなんてたった一つしかない事は理解しているわよね?」

「…………」


「本当に大変だったのよ。……ええ、本当にもう、大変だった! ねえ、分かっているのかしら? ねえ、貴方に言ってるのよ! 貴方に!」

「私、何かしましたっけ?」


 心当たりがない。


「はぁ!? 本当に覚えていないって言うの!? 自分がしでかした事を!?」

「えぇ……?」


 軽く取り乱すが、直ぐに平静を取り戻す。


「まず最初に。貴方の机に置いていた花瓶はどうしたのかしら?」

「花瓶ですか? 花はそこら辺に捨てて、花瓶は奇麗だったので貰いましたが」


「貰った!? ソレは私の私物なのだけど! 貰ったって、一体どう言う神経してるのよ! 直ぐに返しなさい!」

「もう売っちゃったので……」

「売った!? 売ったの!?」


 シリアスな空気は一体何処に行ったのか、カミーラの鋭いツッコミが炸裂する。

 見た目とは裏腹に、中々愉快な人物なのかもしれない。


「まあ……取り敢えず、花瓶の件については置いておきましょう。全くもって、納得出来ていなけれど! 納得出来ないけれど! 他にも言いたい事は沢山あるのよ! わざと肩をぶつけた時に、ぶつかった此方が怪我を負っちゃうし! 嫌がらせに放った小さめの魔法は避けるし! トイレに行ったのだからこれ幸いにと、頭上から水を流しても何故か濡れてない! 本当に、貴方は一体何なのよ!」

「……つまり、何が言いたいのですか?」


 アリサは別段悪くは無いだろう。

 向こうは悪意を持って襲い掛かって来たのだから、ソレに対抗しただけだ。


「謝罪よ! この私を不快にさせた事! 調子に乗った事! 目立った事! 私の思い通りにならなかった事! その他諸々に対しての謝罪よ! 勿論、只頭を下げるだけじゃ駄目よ? ちゃんと地面に膝を付いて、頭まで地面に擦り付けて謝らないと……ねぇ? どうなっちゃうかなんて、貴方にも理解出来る事でしょう?」


 含みのある言い方。

 沢山の取り巻きを連れているのだから、謝罪を断ればどんな目に遭ってしまうのか、嫌でも理解出来てしまう。


(確か、ゲームにもこんなイベントがあったな)


 結論から言うと、この場で謝罪を行っても意味がない。

 アリサは取り巻き達の手によって、リンチされる。リンチが終われば、カミーラからの嫌がらせは終わる。

 だが、もしもまた目立つような行動を取れば、再びカミーラ達が出張って来る。攻略キャラと関りを持たなければ、一生終わる事のない負の連鎖だ。


 逆に言えば「さっさと誰でも良いから攻略しやがれ」と言う製作陣側からのメッセージとも読み取れるが、悪趣味な事この上無い。

 現状、虐めを丸く収めるには集団リンチを受けなければいけない――なんて事はない。

 だって、この世界はゲームでは無いのだ。


 確かにゲームの様な筋書や設定。イベント等は多く存在している。だが、ここは現実だ。主人公と言う名のアバターを操作し、画面を眺めているだけとは違う。

 自分の手や足を動かし、自分の力でこの場に立っている。

 だからこそ、ゲームが用意した選択肢に従う道理など存在していないのだ。


「お断りします」

「……は?」


 一瞬、呆けた表情を浮かべるカミーラ。

 アリサの言葉の意味を理解し、体をワナワナと震わせる。

 カミーラの顔は怒りに染まる。


「貴方、自分がこれからどうなるのか理解しているのかしら?」

「さあ? もしかすると、真逆の事が起こるかもしれませんよ」


 アリサは強く拳を握りしめた。

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