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 アリサから話を聞き、普段は無表情であるクマアの表情が僅かに曇る。


「虐め、ですか」

「うん。そうだよ。僕、最近虐められてるんだよね」

「アリサ様が虐められていると言う事は理解しました。ですが……」


 黄色の瞳をジト目に変え、クマアはベッドの上でゴロンゴロンと寝転がるアリサを見る。


「本当に困ってるのでしょうか?」

「うーん、困っているか。困っていないか、って聞かれたら別に全然困ってないかも?」

「……じゃあ、どうして私に相談したんですか?」


 実の所、虐めが起きると言う状況を想定していない訳では無かった。

『狂い咲く彩華』はシュミレーションRPGであり、学院パートと冒険パートの二つに分けられている。その学院パートでは、主にアリサの基礎ステータスを上げる事や攻略キャラとの好感度上昇が目的とされている。


 しかし、只々コマンド選択を行って基礎ステータスを上げたり好感度上昇させるだけでは面白くない、と言う事もあって様々なイベントが用意されている。

 勿論、アリサにとってプラスになるイベントが有れば、マイナスになるイベントだって存在している。

 今現在発生している虐めは、正しくマイナスのイベント。


(でも、発生する条件は学校で一目置かれる存在になる、とか。注目度が高くなるとか、そう言う条件だったよな? 波風の立たない平穏な学園生活チャートを実行している僕にとっては正に無縁の様な……)


 いいや、現実から目を逸らすのは止めよう。

 学院から注目される様な出来事はあった。

 希少と呼ばれる属性である聖魔法を使える上に、的当て用の案山子をうっかり破壊。昼食ではこの国王子様との昼食会にお呼ばれ、授業ではうっかり超級の精霊を召喚しそうになってしまった。


 1つ1つは大した? 事が無いのかもしれないが、積み重ねれば悪目立ちしてしまう。だからこそ、虐めが発生してしまった。

 本人は望んでその様な結果を齎した訳では無いと言うのに。


「それで、アリサ様はどうするつもりなんですか?」

「どうするつもりって、今は何も考えていないけど」


「悠長な事を言っている場合ですか? 虐めと言うのは、時間が経てば経つほど酷くなっていきます。私には関係の無い事ですが、アリサ様がお願いするのであれば虐めを止める為に手助けする事も仕方がないと……」

「因みに虐めが始まったのは数日前だよ」

「は、はぁぁぁぁぁ⁉」


 普段はクールなクマアも、アリサの衝撃的なカミングアウトは予想外だったのか思わず声を上げる。


「な、何を悠長な事をしてるんですか! 急いで如何にかしないと……って、アリサ様は何を他人事のような……! いえ、それよりもどうして何もせずに放置を?」

「そうしたらクマアが驚くかな? って。ほら、サプラーイズって奴だよ。どう? 驚いてくれた?」

「すいません。一発ぶん殴っても宜しいでしょうか?」


 寝転んでいたベッドから体を起こし、クマアを宥める。


「まあ待ちなよ。僕だって、考え無しに虐めを放置していた訳じゃ無い。正直な所、誰が首謀者なのか分からないからね。暫くの間は様子見してるんだよ」


 嘘だ。

 首謀者が一体誰なのかは知っている。

 問題があるとすれば、相手は平民よりも遥か雲の上の存在である貴族様と言う事であり、尚且つ実行犯は首謀者の取り巻きだと言う事だ。

 まあアリサは世界の救世主である『白の聖女』である為、位としては貴族なんかよりも遥かに上の存在なのだが。


「ですが、アリサ様はどうやって収集を付けるつもりなのですか? 向こうのいいようにやられていれば、それこそ向こうも付け上がるだけだと思いますよ」

「うーん。多分もう少しで向こうも別のアクションを取って来ると思うんだよね」

「? と、言いますと?」


 今までアリサが受けて来た虐めは、自身が座る席に色鮮やかな花が活けられた花瓶が乗って居たり、別の教室に向かう途中でわざと肩をぶつけられたり、授業中に講師に気付かれない程度に小さな魔法が放たれたり、質問に答えようとした時に嘲笑が聞こえてきたり、トイレに行った時に頭上から大量の水が降ってきたり、と言った物だ。

 気が弱かったりすれば、精神を病んでしまうのかもしれないが、相手は前世の記憶持ちだ。その上、ヤンデレ王子に監禁されても笑って受け流すことの出来るポテンシャルを秘めている乙女ゲームの主人公アリサ様だ。


 この程度で音を上げる筈が無い。

 虐めの解決策は二つ。

 一つは、現時点で最も好感度の高い攻略キャラに助けて貰う。もう一つが、決められたターン数耐える。

 後者を選択した場合、こんな虐めを引き起こした元凶と対面する事が出来る。


「成程。……まあ、アリサ様が大丈夫と言うのであれば私は何もしませんが、どうか気を付けて下さい」

「大丈夫だよ。僕に掛かれば、この程度どうってことも無いからね」


 そして、遂にその日が訪れる。

 教室にやって来ると、机の上に花瓶は無い。

 代わりに置かれているのは差出人の書かれていない封筒。封を開き、手紙の内容を確認するとアリサは薄っすらと笑みを浮かべる。

 ようやく釣れた。

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