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「今日は精霊について説明するぞ。精霊とは取り扱いが難しい存在だ。ふざけたりせず、ちゃんと真面目に聞いておくように」


 ――精霊。


 ソレは森羅万象。ありとあらゆる物、概念、現象に存在しているとされている存在だ。果たして、精霊が一体どう言った生物なのか? 全ては謎と言う名のベールによって覆われている。

 しかし、その詳細を知る事は出来ずとも、人類は精霊を扱う事が出来た。

 否、扱うと言うのはやや意味合いが異なる。人が精霊を使うように、精霊もまた人を使っている。

 ある種の共存関係のようなものだ。


 だが、精霊を粗雑に扱ってはいけない。

 例えどれだけ小さく、弱々しい存在だったとしても、精霊が本気を出せば人間など一溜りも無いのだから。

 その上、倫理観が緩い。


 不愉快な奴は殺しても問題無し、とか考えているので下手をすれば死んでしまう。実際に、精霊の手によって亡くなってしまった者も珍しくはない。

 中にはコイツ馬鹿だな、となるような死に方も存在しており、今でも笑い話として人々に広く伝わっている。

 故に、精霊を使役する時は隣人のように愛する事を忘れてはならない。彼らを道具と見た瞬間に、その者の末路は決まったようなものなのだから。


「……何て設定だけど、ゲーム本編は隣人のりの字も無いからなぁ」


『狂い咲く彩華』において精霊の位置づけは切り札だ。回数制限や、発動するまでに数ターン消費するものの、強力な技を放つことが出来る。

 勿論、精霊の固体によって発動出来る技の威力は変わって来るし、回数制限や消費するターンも変動する。

 なので、そこそこ良い精霊から更に良い精霊に乗り換えて、そこからもっと良い精霊に乗り換えて、と言うRPGで言う所の装備の切り替えの様な事を行う。

 使わなくなった精霊は売却する事が出来るし、完全に道具扱いだ。


「ま、説明されても余り理解が出来ないだろうな。と言う訳で、今回は実際に精霊を召喚してみようと思う。とは言え、流石に全員は無理だ。誰か一人だけだ。誰か、自分は精霊を召喚してみたいです! って言う奴はいるか?」


 講師が問いかけるが、手を上げる者は誰もいない。

 当然だ。

 ついさっきまで、精霊がどう言う存在なのか? その恐ろしさまで、しっかりと説明していたのだ。

 勿論、自ら進んで馬鹿な真似をする事は無いだろう。

 しかし、万が一の可能性がある。だから誰も手を上げない。


 アリサは目立つ事を嫌っているので手を上げなかった。彼女の中では、今も波風の立たない平穏な学園生活チャートは継続中なのだ。

 誰も手を上げる生徒が居ない。

 講師は頭を掻きながら、やや困った表情を浮かべる。


「私は特待生の彼女を推薦します!」


 誰かが、ハッキリとした声でそう言った。

 無論、アリサは何も知らない。


(は? 誰だ!? 今、そんな事を言った奴は!?)


 咄嗟に声の主を探すが、分からない。

 クラスメイトの声や顔を覚えていないのが災いした。

 だが、目先の問題は……。


「ふむ。学友から推薦されるなんて、とっても優秀な生徒らしいな。分かった。特待生。お前が実際に精霊を召喚して見て、この場に居る全員の手本になって欲しい」

「…………分かりました」


 ここで断ってしまえば、余計に話がこじれてしまう。

 アリサは渋々従う。

 席を立ち、講師の元までやって来るアリサ。

 講師が座る席は、アリサ達が使う机とは異なり二回り大きい。精霊の召喚は講師の机の上で行われる。

 精霊を召喚する際に必要なものは全て揃っている。

 後は、講師の指示に従いながら、精霊を召喚するだけ。


 ゲーム本編では精霊を召喚する時は必要な素材を用意した後、召喚すると言うコマンドを押せば自動的に召喚を行っていた為、こうやって自らの手で召喚すると言うのは新鮮だ。

 講師の言う通りにしながら五芒星を書く。その周囲には、意味はよく分からないものの何か魔法的? な意味合いのある呪文を刻んでいく。

 コレで場は整った。

 後は五芒星の中心に触媒をおき、呪文を唱えれば精霊召喚は完了する。


「我、ここに新たなる出会いを望む。――来たれ。精霊よ!」


 召喚の呪文を唱えると、五芒星が光始める。

 最初は淡く。しかし、アリサの言葉に呼応するようにして、光の勢いは次第に強くなっていく。


(……あれ? 弱い精霊を召喚する時って、こんな感じだっけ?)


 精霊召喚を一言で説明するならガチャだ。

 階級は4つに分けられ、下から順に下級、中級、上級、超級となる。

 扱う触媒によって召喚される精霊の階級が変わる――要は排出率が変動する訳だが『狂い咲く彩華』においてガチャの排出率は渋い。


 触媒によるレア度の要素とは一体何だったのか? とツッコみたくなる程、最高レアは当然として準最高レアも出にくい。

 噂によると、最高級の触媒を用いて複数召喚を行ったモノの、超級は全く出て来ず、上級はたった一体だけ。後は中級と下級と言う話も珍しくはない。

 しかし、あくまでも理論上の話にはなるものの、最低レアの触媒であっても超級や上級が召喚される確率はゼロでは無い。


 触媒のレア度の変化によって齎される恩恵は、排出率の変化だ。更に上の精霊の召喚を解禁する、と言った物では無い。

 だからこそ、あり得ない話ではない。

 最低レアの触媒を使って、最高レアの精霊を召喚してしまう――何て事も。単に、成功する確率が天文学的な数字になるだけで。


「……は?」


 目の前に広がる光景に、思わず素っ頓狂な声が漏れる。

 作り出された五芒星。唱えられた召喚用の呪文。その二つを終え、姿を現したのは下級精霊では無かった。

 下級精霊と、目の前の精霊を見間違う事は無いだろう。


 ソレは女性の姿を模していた。顔は純白のベールに覆われ、身に纏う衣服は天女が空から舞い降りてきたかのように幻想的だ。

 彼女が姿を現すと同時に、ブワッ! と魔力の奔流を全身に感じた。

神秘的なその姿は、正しく精霊。

 されど、他の精霊とは一線を画すその姿は、正しく超級の名に相応しい最高レアの精霊だ。


「一体何なんだ⁉ この精霊……明らかに下級の精霊じゃない! 一体、何を呼びだしたって言うんだ!」


 思わず叫ぶ講師。

 アリサも全くの同意見だ。

 どうしてこうなったんだ!? と、思い切り叫びたい気分だった。


(クソが! どうして! こう言う時に限って! 超級の精霊を召喚するんだよ! 運営! ちゃんと排出率の仕事をしてるのかよ!)


 単発で最高レアを当てると言うのはとても嬉しい結果なのだが、こと今回に至っては話は別。欲しかったのは目玉商品では無く最低保証なのだ。

 見れば、講師を始めとしてクラスメイト達も超級の精霊が呼び出された事に動揺している。当たり前だ。スライムが出ると思ったら、ドラゴンが出て来たと言う状況に陥れば誰だって驚きを隠すことは出来ない。


(不味い! 不味い! 不味い! このままだと、また面倒な事態になる! 僕の作った波風の立たない平穏な学園生活チャートが遠のいてしまう!)


 かくなる上は。


「あ、手が滑ってしまった!!」


 アリサは召喚儀式をぶち壊す。

 儀式の体を為さなくなった事により、次第に体が薄れていく超級の精霊。

 顔はベールに隠れていて分からなかったものの「え⁉ こんなに大々的に登場して来たのに、これで終わりって本当なの!?」とでも言いたげにアリサを見つめていた。


 申し訳ないが、仕方のない事だ。

 恨めしそうにアリサを見つめながら、精霊はその姿を消した。


「き、君! どうして召喚を止めたんだ! あの精霊は恐らく、超級と呼ばれる類の精霊なんだぞ! それを何故? どうして!?」

「申し訳ありません。余りの事に気が動転してしまいまして……」


 両肩を掴まれ、グラグラと揺さぶられながらもアリサは内心で安堵する。超級精霊を召喚してしまったのは事実ではあるが、それもほんの一瞬の事。

 人の噂も七十五日と言うし、最初は話題になるかもしれないが、時が過ぎれば噂も沈静化していく事だろう。

 ――この日を契機に、アリサは虐められるようになった。

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