表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/40

5-1

 結局、案山子が古かったから破損してしまった、と言う事で事件は集束した。恐らく、講師側も何が起こったのか上手く理解出来ていなかったのだろう。

 学校生活2日目にして、早々にやらかしてしまった訳だが、まだ挽回は出来る。……挽回する事は出来る、筈だ。


 時間は過ぎ、昼休み。

 昼食の時間だ。

 前世は食文化が発展しており、多種多様な種類の食べ物を食べる事が出来た。だが、この世界では違う。

 どれもこれも微妙で、お世辞にも美味しいとは言えない。


「唯一の救いは、学院の食事は美味しいって所か?」


 ルミナス学院での食事の方法は2つに分けられる。

 1つは自宅から持って来た者を食べる。

 もう1つは学食を利用する事。


 開放感を重視してか、食堂のスペースは広い。

 出入口に用意されたメニューを見て、何を注文するのか決める。壁側に面した窓口にて、食べたい品を注文した後、適当な席に座って待っていれば、係の人が注文して来た物を持って来る。

 流石は貴族が通う事を想定して作られた学校。

 食堂の見た目は良いし、サービス面も充実している。


「只、唯一のネックは値段が高いと言う事。……マジで値段が高い」


 自前で昼食を用意する、と言う選択はない。

 生憎、アリサは料理がそこまで上手ではないのだ。出来る事は、煮たり焼いたり炒めたり。単純な調理法のみ。


「高いけど仕方がない。……これは必要経費。そう、必要経費だから」


 因みにこの世界の通貨はゴールドだ。

 既に覚悟は決めた筈だが、やっぱり踏ん切りがつかない。

 コレが貧乏性の弊害か……!


「もしかして、何か困っているのか?」

「いえ、そう言う訳では無いのですが……」


 曖昧に返答しながら、声を掛けてきた人物を確認。

 思わず目を見開く。

 アリサの目の前に居るのは金色の髪に、世の女性を虜にしてしまうような甘いマスクの青年。入学式では新入生代表も務めたジュダス・フィリップ・リア・ハルフォード。

 この国の王子にして、攻略キャラの1人。

 ジュダスの来訪によって、周りが騒然とする。


「もしかして、料理が高すぎて悩んでいたのか? 仮にそうだったとしたら、俺が君に料理をご馳走しようか?」

「…………え?」


 願ってもみない提案。

 無料で食べられるご飯よりも美味しい物はない。ましてや、振舞ってくれる相手はこの国王子様にして攻略キャラ。その上、振舞ってくれる料理は貴族用の高級料理。

 本来で有れば結構です! と即答するべきだった。

 だが、沢山の注目が集まる中、この国の王子様からの誘いを断ればどうなるのか分からない。少なくとも、角は立つだろう。

 無料の飯も惜しい。


(クッ! なんて卑劣な! まさか、ほんの僅かなやり取りだけで僕の退路を塞ぐなんて! 流石は悪名高き攻略キャラの1人と言う訳か!)


 コレでジュダスの要求を呑む以外に道が無くなった。

 仕方がない。今回の所はジュダスの要求を呑む事にしよう。決して、料理を奢ってくれたからついて行った訳では無い。


「宜しいのでしょうか? 私の様な者が、殿下と一緒に食事など……」

「そんなつまらない事は気にするな。と言うより、殿下と呼ぶのもやめてくれ。ここでは俺も一生徒だ。それに同級生なんだから、ジュダスと呼んでくれ」


 ジュダス呼びに変えると好感度が上がる。

 論外だ。


「いけません。殿下。例えどの様な場所であろうとも、貴方様は王族であり、私は平民です。殿下が許しも、周囲は許してくれないでしょう。どうかお許しを。そのように気安い言葉を使う事は、私には出来ません」

「……そうか。そうなら、仕方がない」


 若干不満そうにしながらも、アリサの言葉を受け入れるジュダス。


「それじゃあ早速向かうか」


 ジュダスに連れられる形で向かったのは食堂のテラス席。外の景色を楽しむ事が出来るが、王族専用と言う暗黙の了解が存在している。

 気軽に座るジュダスに対して、恐る恐る席に着くアリサ。

 昼食の誘いに乗ったのは間違いだったかもしれない。


「ご注文をお伺いします」


 やって来たスタッフが二枚のメニューを、それぞれに渡す。平民であるアリサに対しても物腰柔らかな態度。プロの風格を感じる。


「それじゃあ俺はコレにしようか」

「私は、ここからここまでお願いします」


 ジュダスはメニュー表の内の1つを注文。

 対するアリサはメニュー表の端から端まで、指でなぞって注文する。

 本来で有れば、あり得ない注文。しかし、奢ってくれる相手は攻略キャラ。アリサの懐は痛まない上に、アリサに対する好感度は下がる。

 実行しない手は無い。

 ジュダスは僅かに困惑する様子を見せるが、スタッフは全く動じない。

「かしこまりました」と恭しく一礼し、その場を去る。


「いや、ご馳走するつもりだったから全然構わないのだが……本当に全部食べる事が出来るのか? 失礼だが、全部食べる途中で君のお腹が破裂してしまうんじゃないのか?」

「問題ありません。殿下。私は成長期なので」


 理由は出鱈目だが、実際に可能だ。

 アリサは大食いなのだ。


「な、成程。そうだったか。だとすれば、もしかすると失礼な事を聞いてしまったか?」

「いいえ。殿下。気にしないで下さい」


 紅茶も用意されている。

 王族が座っているからこそ、隙の無いもてなしなのかもしれないが、それでも驚嘆せずにはいられない。

 紅茶など今世では初めて飲む飲み物だが、ペットボトルに入っていた品とは異なり、妙に高貴な味がする。寧ろ、高貴な味しかしなくて感想に困ってしまう。


(問題は、アイツがどうして僕を誘ったのか、だ。やっぱり考えられるのは、入学式へ向かう途中で頭を飛び越えてしまったから? ……いや、普通に不敬だから怒るのも仕方がないと言えば仕方が無いけど……今はまだ序盤だからな。やや考えにくい)


 目の前に居るのはジュダス・フィリップ・リア・ハルフォード。この国の王子にして『狂い咲く彩華』の攻略キャラの1人だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ