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ルミナス学院での本格的な学校生活が始まる。
「――と言う訳なので、この理論は此方に繋がって来ると言う事なのです。ええ、皆さんも既にご存知の通りではありますが……」
割と難しいものの、原作知識を持っている身からすればある程度理解は出来る。
「うーん。それでは魔法の属性について、誰かに応えて貰いましょうか。では……そこの貴方。答えて頂けますか?」
講師が手に持つ棒が、アリサを指し示す。
尚、教室は長机が階段状に連なっており、講師側が生徒全員を見る事の出来る造りとなっている。
「はい。基本的な属性は火、水、風、土、聖の五つがあります」
「正解でーす」
この世界は剣と魔法のファンタジー。
当然ながら、魔法は存在しているし、属性も存在する。『狂い咲く彩華』では主にこの5つが中心となっており、魔法それぞれに対して相性という者がある。
火は水に弱く、水は風に弱く、風は土に弱く、土は火に弱い。
聖は全属性に対して弱い。
因みにアリサが行使できる魔法は「聖」属性であり、「白の聖女」の力も「聖」属性に分類されている。
その為、攻撃魔法は全くもって使い物にならない。だからこその後方支援なのだが、全くもって悪意しか感じられない。
「聖」属性の担い手は希少で有るにも関わらず、だ。
「で、す、が。やはり、こう言った属性に関しては、実際に見て貰った方が分かり易いですよね? と言う訳で、ここから先は外に出て、実際の魔法がどんな物なのか見て見ましょうか!」
つまらない講義より、実技の方がテンションは上がる。ソレは異世界であろうと、前の世界でも変わる事は無く教室は沸き立つ。
講師に引率される形で外に出る。
アリサ達が集まったのは訓練所の一角。
少し距離が離れた場所には、鉄を用いて作られたであろう案山子が鎮座している。両脇には仕切りが存在しており、ソレが幾つも並んでいる。
「では、実際に魔法を披露しても良いよ、と言う人は居ますか? おお、こんなに手が上がりますが。……では、貴方と、貴方と、貴方と、貴方。お願いしても良いですか?」
魔法の講師と言う事も有り、生徒一人一人がどんな魔法を行使するのか把握していたのだろう。次々と使命していき、実際に魔法が披露される。
火。水。風。土。
しかし、聖属性に関しては例外だ。
担い手は希少であり、中々現れる事は無いのだから。
だが、アリサは「聖」属性の使い手。
当然と言えば当然の流れだが……。
「アリサさん。皆さんに「聖」属性の魔法を見せて貰う事って、出来るかしら?」
こうなってしまう。
目立つ事は嫌いだが、ここで断れば逆に悪目立ちしてしまう。
了承する以外に選択肢は無いのだが、
「あの、確かに私は「聖」属性の魔法を使えますが、攻撃魔法は使えません。私が使えるのは支援のみですが、それでも大丈夫ですか?」
「へ? 攻撃魔法は覚えていないの?」
「はい。何も覚えていません」
「聖」属性は製作陣の手によって、大幅に弱体化してしまっている。本来の攻撃魔法に比べて4分の1の攻撃力、と言う事を知っていたら誰も習得しない。
しかし、これはあくまでアリサが原作知識を知っているからだ。
原作知識を知らない者からすれば、アリサの選択は少し異様に見えるかもしれない。でも、マジで使い物にならないんだから仕方がない。
「それじゃあ、支援の魔法でも大丈夫よ。ソレを使って……どうしようかしら? 案山子に何かして貰う? でも、だったら誰かに支援魔法をかけてから……」
「案山子に何かすれば良いんですね? 分かりました」
「へ?」
地面に落ちている適当な小石を拾う。
(威力は抑えて)
小石を握りしめて投げる。
空を切り裂く音と共に、小石が飛ぶ。
ゴギン! と何か、硬い物が噛み砕かれる様な音が響き渡り、鉄製の案山子の胴体に大きな穴が開く。
「…………」
「…………」
誰も彼もが口を閉ざす。
軋んだ音が聞こえたかと思えば、胴体に穴の開いた案山子が後ろに倒れる。
「え、えっと……もしかして、結構古かったのかもしれませんね。……案山子が」
やってしまった。
力の調整をミスった。
後悔するが、もう遅い。
どうやってこの状況を切り抜けるか? 半ば現実逃避するように、アリサはそんな事を考えるのだった。