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乙女ゲームのTS主人公は攻略なんてしたくない  作者: 鯖鮪
2章 ままならない現実
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2

 アリサが足を踏み入れた瞬間、空気が切り替わるのを肌で感じとる。


 冒険者ギルド。

 冒険者が行う仕事等を斡旋する目的で作られた組合であり、互助会のような役割も果たしている。

アリサも冒険者ギルドに所属する、冒険者の1人だ。


 やや粗雑でボロボロな外観とは裏腹に、室内は割と奇麗だ。尤も、見た目に反してと言うだけで有り、貴族の友人であるカミーラが目にすれば顔を顰めてしまう事だろう。

 冒険者ギルドには酒場が存在しており、仕事や依頼が無く、暇を持て余した冒険者達は良くそこを利用している。


 聞く所によれば、常日頃からどんちゃん騒ぎを行い、近所からは騒音による苦情が届く――と言う話も珍しくは無いのだが、何故かアリサがやって来た時だけ酒場はシーンと静まり返っている。

 

 依頼の受付等を行うカウンターへと向かう。そこでは冒険者ギルドの職員が忙しなく仕事を行っており、カウンターにて依頼の受注や報告を行う。

 職員は男性と女性。何方も存在するが、今回の女性の職員だった。


「コレがオウルベアの目玉だ。確認して欲しい」


 先程の沈黙が嘘だったかのように、ざわりと、周囲が騒然とする。

 アリサの両手に抱えられていたのは、バランスボール程の大きさを持つ巨大な二つの目玉。先程摘出したばかりで、ヌメヌメとした粘液に塗れている。


「は、はい! 少々お待ちください! …………確かに、討伐依頼が出されていたオウルベアの変異種です……ね。まさか、本当に倒されてしまうとは」


「世辞は良い。早く報酬をくれ」

「す、すみません! 急いで用意いたします!」


 注目されているのを、肌で感じとる。

 やっぱり討伐依頼を受けるべきでは無かっただろうか? 一抹の後悔が脳裏を過るものの、金は必要だ。


 オウルベアの変異種は、一般的な視点から見れば凶悪な存在であり、その分討伐難易度が高い。討伐難易度が高いと言う事は、討伐した時に支払われる報酬も高いと言う事で、お金が欲しいアリサにとっては都合のいい依頼だった。


 唯一欠点を上げるとすれば、そこまで手間をかけていないにも関わらず、こうやって注目されてしまうと言う事。


(こんなもん、師匠の訓練を受けてたら簡単に倒せるようになるわ! 一片、師匠の所で修行の一つや二つ、受けてみやがれ!)


 内心でそう叫びつつも、実際に声に出したりしない。

 他者とどのような感じで接すれば良いのか分からず、色々と試してみた結果、武士の様な口調になってしまったのが少し恥ずかしい。


 暫く待たされたが、報酬の金を渡される。

 革袋一杯に詰まった金は重いものの、それは同時に膨大な金額である事の証明だ。


 軽く中身を確認し、革袋の重さに心地よさを感じつつ、アリサは自身の懐に革袋を入れる。そのまま後にしようとするが、同業者の1人に声をかけられる。


「おい。仮面の。お前、もう帰るのか?」

「別に、ここに居座る理由も無い。私は私の目的を果たしたのだから」


 アリサは同業者たちに、自身の素性を明かしていない。

 ずっと仮面を付けている為「仮面の」と呼ばれている。


 尤も、アリサをそんな風に呼ぶのは、彼女とそれなりに長い付き合いのある者達だけだ。日が浅い者や、冒険者になってからそこそこの中堅達は、アリサを尊敬と恐れがない交ぜになった目で、遠巻きに見つめて来るだけだ。


 アリサ自身は何方でも構わないが、声を掛けてくるのが嬉しくないと言う訳ではない。


「まあ、硬い事言うなよ。最近、お前はここら辺に顔を出していなかったが、何処で何をしてたんだ?」

「話す必要性が感じられない。他に用が無いのであれば……」


「良いじゃねえかよぉ! 冒険者にとって、こう言うのは世間話なんだよ。って言うか、俺と一緒に飲まねえか? お前だって、腹が空いているだろ?」

「別にお腹なんて空いて……」


 否定しようとした瞬間、腹の虫が鳴り始める。

 そこまで大きく無かったが、自分が空腹だと知らせるには十分だ。


「…………」

「如何やら図星だったらしいな! ほら、俺の隣に座りな。何なら奢ってやる……と言いたい所だが、生憎持ち合わせがねぇんだよなぁ。仮面の、お前、さっき討伐報酬を手に入れたんだろ? だったら、俺に少し奢ってくれよ!」


「……お前、もしかしなくてもソレが目的か?」


 アリサの質問には答えず、男は意味ありげに笑うだけ。

 お腹は空いている。

 このまま何も食べないのは少し辛い。


(口車に乗るは癪だけど……仕方がない)


「その誘いに乗ろう」

「おお! 良いね! やっぱり、そうでなくっちゃぁな!」

「言っておくが、奢ったりしないぞ」


「なんでぇ! あんなに大金を手に入れたんだから、少し位は分けてくらたって良いだろうがよぉ!」

「何か面白い話を聞かせてくれるなら、考えてやらんでもない」


 アリサは、酒場の店員に注文を行う。

 今のアリサは冒険者。


 マナーであったり、立ち振る舞いなど気にしなくても良い。メニューの端から端までを注文する。運ばれて来た料理を、仮面を付けたまま、器用に食べていく。

 時折、相席している男が盗み食いしようとするが、食べ盛りなアリサがそんな暴挙を許すことも無く、注文した料理を全て平らげる。


「……相も変わらず、スゲェ食いっぷりだな。大食いのジミーでも、これだけ沢山の料理を食う事は出来ねぇぞ」


 誰だ? ジミーって。

 腹八分目、と言った所ではあるが、これ位で丁度良い。

 注文した数が数だけに、金額は相当。


 しかし、アリサには臨時収入があるし、ルミナス学院の食堂に比べればかなり安い。その分、味も数段落ちてしまうのだが仕方がない。

 満足したので、お勘定を済ませて、今度こそギルドを後にしようとするが、


「あっ! 思い出した! そう言えば、あったぜ! 面白そうな話が!」

「まだ覚えていたのか? その話? 言っておくが、私が面白くないと判断したら、意味が無いぞ」


「まあ聞けって。コレが中々に興味深い話でよ、最近、近隣のギルドに白髪の美人さんがやって来るって話だぜ」


 ドカッ


 ――白髪の美人さん。


 その単語を耳にした瞬間、過去のトラウマを刺激された。

 思わず、座っていた椅子から転げ落ちてしまう。


「お、おい。大丈夫か……?」

「別にどうって言う事は無い。話を続けろ」


 倒れた椅子を元に戻し、再び座り直すアリサ。

 男は怪訝そうな目でアリサを見つめていたものの、話を再開する。


 大丈夫。他人の空似だ。

 同一人物である筈が無い。


「なんでも、その灰色の美人さん曰く、弟子を探しているらしいんだってよ。中々筋は良かったらしいんだが、修行を途中で逃げ出してしまったらしくてな、見つけて今度は逃げられない様に徹底的に鍛え上げるんだとか……」


 ガタッ。ゴトッ。ドガッ!

 アリサはまたもや、座っていた椅子から転げ落ちてしまう。

 今度はより激しく。


「……なあ、本当に大丈夫か?」

「ま、まさか大丈夫じゃない訳が無い! けど! 今日は少し体調が優れないから、ここで帰らせて貰う!」


「はぁ? あんなに沢山料理を食べてた癖に? って言うか! ここからが面白い話なんだよ! 頼むから聞いて行って……」

「興味深い話だったから、コレ! 私の奢り!」


 討伐報酬の中から適当に金をとり、テーブルの上に叩き付ける。

 男の言葉を最後まで聞く事無く、アリサは逃げるようにギルドを去っていく。


(……不味い。不味い。不味い。あの人が近隣のギルドに出没したって事は、ここにやって来る可能性は決して低くない! 暫くの間、冒険者は休む事にしよう! ……でも、どうしてこんな面倒な時に、新たな面倒事がやって来るんだよ!)


 アリサは心の中で叫ぶのだった。


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