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絶叫が響き渡る。
とある森の最奥。
立ち並んでいた樹々は切り倒され、鳥や森の騒めきは聞こえない。
そんな場所に一体の獣がいた。
「―――――――――――――!」
それは異形の怪物。
或いは、この世界に於いては「魔物」と言う呼び名が相応しいかもしれない。
頭部はフクロウのような見た目で有りながら、その下は筋骨隆々なクマの肉体を持つ異形。
名をオウルベアと言い、それなりの実力があるものの、中堅冒険者たちにとっては倒す事が出来る獲物――の筈だった。
ソレは通常のオウルベアよりも、一回りも二回りも巨体だった。
強靱な肉体は正しく鋼。子供が駄々をこねるような稚拙で幼稚な攻撃は、樹々を呆気なく切り裂く。
冒険者においてベテランと呼ばれるCからBであっても、目の前のオウルベアを倒す事は難しい。
仮に討伐する事が出来たとしても数名の犠牲者が出る事は確実。数多の魔物を倒してきたプロフェッショナル達でさえ手間取ってしまう魔物。
如何に、目の前のオウルベアが凶悪な存在なのか理解出来てしまう。
たった一人で討伐を行う事は無謀。
自ら死にに行く様なもの――の筈だった。
降り注ぐ暴虐の嵐。掠っただけでも致命傷に成り得る攻撃を、1人の少女はヒラリヒラリと躱していく。
『死』に対する恐怖は感じられない。
普段と変わらない自然体で、少女はオウルベアの相手をする。
「お、隙を発見」
倒れている倒木を踏み台代わりに跳躍。
オウルベアの懐へと潜り込み、鳩尾部分を思い切り殴りつける。
少女とオウルベアのサイズ差は絶望的だ。
さながらヌイグルミと幼子。
遊ぶ事が出来る存在と、遊ばれる事しか出来ない存在。しかし、その構図は今まさに、根本からひっくり返されようとしている。
生半可な攻撃は通らない鋼の肉体。
だが、少女が繰り出した攻撃は生半可な代物ではない。ズン! と衝撃が鳩尾を通して、オウルベアの全身へ伝わる。
眼球を大きく見開き、口を開けるオウルベア。そこから苦悶の声が漏れ出る事は無く、大きく吹き飛んでいく。
飛距離は数メートル。
されど、人の身でそれを為した。
見物人がいれば、少女の余りの出鱈目具合に目を丸くしていたかもしれない。
「うんうん。良いの入った感じだけど……まだ戦えるかぁ。うーん、やっぱりもう少し強めに殴っとかないと駄目な?」
少女の一撃はオウルベアにダメージを与えた。しかし、オウルベアはまだ動く事が出来る。或いは、この一撃で仕留める事が出来ていれば良かったのかもしれない。
オウルベアの体毛が茶色から赤色に染まる。
フクロウ特有の、何処か間の抜けた表情から一転。外敵を殺さんとすると、憎悪に満ちた表情へと変化。
雄叫びを上げる。
自身に傷を付けた少女を、完膚なきまでにぶち殺す為に。
余りの喧しさに少女は両手で耳を塞ぎ、ほんの刹那、瞼を閉じる。
ソレが致命的だった。
目を開けた瞬間、オウルベアは少女へと襲い掛かる。
鬼気迫る表情で。人間数人で有れば簡単に切り裂き、肉の塊にする事は造作でも剛腕と、鋭い爪先をもってして。
攻撃方法は単純。
力任せに腕を振り下ろし、爪を立てて何度も、何度も、何度も、何度も、何度も叩きのめす。さっきよりも速いだけ。怒りによって、攻撃力が上がっただけ。
たったそれだけの些細な変化で、脅威は格段に跳ね上がる。
一体どれ程の時間が経過したのか。
圧倒的な暴力によって少女は死んだ。
暴虐の獣は勝鬨を上げようと咆哮を上げようとして――目を見開く。
何故なら、少し離れた木の上に少女が居たからだ。
「お、やっと気付いた。まったくさぁ、僕の事を殺したいって言う気持ちは良く分かったけど、もっと周りをよく見ないと。……と言うか、普通は攻撃している時に気付かないか? いや、でも知能はそこまで高くないらしいし仕方がない、のか?」
種は簡単だ。
少女はわざと隙を見せた。
オウルベアに攻撃を誘発させる為に。
狙いは、仕留める事が出来たと言う勘違いによって生じる隙。
「今度こそ、これで終わりにしようか」
少女は樹々の枝を蹴り、オウルベアの頭部へと飛ぶ。
「踵落とし!」
少女の踵はオウルベアの眉間にめり込む。
オウルベアはその場に崩れ落ちる。
少女は着地した後、強めにオウルベアの体を蹴ってみるが反応は無し。
少女のーーアリサの勝利だ。
「余裕だったとは言え、やっぱり仮面付けながら動き回ると暑いな」
学生服と言う普段の装いとは異なり、冒険者らしい格好のアリサ。顔は仮面で覆われ、普段は全身をすっぽりと隠すローブを纏っている。
尤も、オウルベアと戦っている時は動き辛いので脱いでいるし、その下はバニースーツと言う破廉恥な衣装ではない。
動き易い軽装。
過度な露出はしていない。
「さて。オウルベアの討伐証明は目玉だったっけ? うぇ、取りたくないなぁ。長いこと冒険者をやっているけど、本当にこう言う所は慣れない」
文句を言いながらも、アリサはオウルベアの目玉を取り出すのだった。




