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『白の福音』を解除する。


 力を抜く様に息を吐く。

 アリサの背後に浮かび上がっていた紋様は消え、全身を包み込んでいた淡い光も薄れていく。何処か、体に不調が無いか確認を行う。


『白の聖女』のみしか使う事の出来ない魔法である『白の福音』には、明確な弱点が存在する。長ったらしい呪文の詠唱を行わなければいけない、と言うのも弱点だが、もう一つ致命的な弱点が存在する。

 それは、『白の福音』が効果を齎す時間には限りがあると言う事。


 時間にして5分。

 長い人生において、吹けば飛ぶような時間だ。


 5分しか、アリサは限界を超えた力を得るが出来ない。おまけに、一度発動すれば暫くの間は使えなくなる、クールタイム付き。

 だからこそ、アリサにとって『白の福音』は切り札。

 使い所を間違えてしまえば、自分の首を絞めてしまう事になるだろう。


「……ま、今回の相手なら遅れは取らなかったと思うけど」


 何せ、ワイバーンは何十体と言う程倒して来た獲物だ。今更、人の身と合わさった上に、ボスと登場したとしてもインパクトに欠ける。


「問題は、奴を一体どうするか? って所か」


 崇拝者リーダーには、バニースーツの姿を見られた。


 幸いにも、目撃者は奴だけ。

 ここで始末してしまえば、アリサがローブの下にバニースーツを着て魔王崇拝者達のアジトにカチコミを掛けてきた、と言う不名誉な噂は流布される事は無い。


 そもそも、先程のラッシュ攻撃によって死んでいるかもしれない。

 確認の為に、アリサは今ものびている崇拝者リーダーへと近づく。

 もう、戦いは終わった。


 そんな慢心があったのかもしれない。

 だからこそ、反応が遅れてしまう。


「死ね! この、化け物が!」


 ガバッ! と起き上がったかと思えば、崇拝者リーダーの手には短剣が握られている。柄は普通。しかし、刀身は奇妙な色合いだ。突き刺されるのは不味い。

 だが、アリサは反応が遅れてしまう。


 だからこそ、崇拝者リーダーの手に握られた短剣は、アリサの胸元を突き刺す――事は無かった。パキッ! と言う音と共に、崇拝者リーダーの手に握られていた短剣は折れ曲がり、刀身が砕け散る。


「は?」


 恐らく、残った力を振り絞った一撃だったのだろう。

 呆然とした声と共に、その場に倒れ込む崇拝者リーダー。


「お前……何をした? どうして、短剣が突き刺さらない!?」

「『障壁』って言う魔法を知っているか?」


「……攻撃を一度だけ防ぐ、聖属性を持つ者にしか使えない魔法。だが、アレはたった一度だけだ! 一度攻撃を食らえば、その効果は消えてしまう! ましてや、貴様は一体どれだけの攻撃を食らって来たと思うんだ!」


「130枚」

「何の……数だ?」

「僕が展開していた『障壁』の数だよ」

「そんな、馬鹿な話があるか!」


 アリサが行使する魔法の中で、支援魔法の次によく使う魔法。ソレこそが『障壁』だ。効果は、一度だけどんな攻撃も防ぐ。

 ゲーム本編では『障壁』は一度発動すれば、発動した『障壁』が消えない限り、再び『障壁』を展開する事は出来ない。


 その設定は、現実の世界においても変わらない。

 だが――所詮はゲームだ。

 支援魔法を自分自身に使えたように。本来であれば、他者に使う事しか出来ない『白の福音』を自分に発動する事が出来たように。


 出来ない、と決めつけているだけで、実際は出来てしまう。

 もしかすると、アリサが転生者だからこそ可能としてしまう反則なのかもしれないが、そこら辺はどうでも良い。


 支援魔法と同じように、『障壁』は常日頃から展開されている。支援魔法とは異なり、日常的に魔力を消費する必要もない上に、掠り傷程度であれば「攻撃」判定とはみなされず、自動で防いでくれる為重宝している。

 カミーラの取り巻き達と戦った時に傷を負わなかったのも、無数に展開していた『障壁』のお陰だ。


「お前は……何なんだ? 一体、お前は何なんだ……!」


 ――お前は何者だ?


 随分と、哲学的な質問だ。

 アリサは乙女ゲームの主人公であり、『白の聖女』の継承者であり、転生者だ。だが、どれも名乗るのには適さない。


 仮面の内側。

 ニッ、と笑いながら言う。


「『普通』を大事にしたい、女の子だよ!」


 崇拝者リーダーの顔面をぶん殴り、今度こそ倒す。

 こうして、魔王崇拝者達のアジトは壊滅したのだった。




「壊滅出来たのは良いけど、このアジト、どうしようか?」


 放置しても問題ないかもしれないが、万が一の事を考えると処分しておいた方が良いだろう。

 床に転がっている、崇拝者リーダーの巻き添えを食らってしまい、焼死体と化してしまった崇拝者達の片付けとか普通に嫌だ。


「埋め立てれば簡単に済むかな?」


 問題があるとすれば、今度こそ気絶した崇拝者リーダー。

 奴は、アリサのバニースーツ姿を見てしまった。

 ここで消してしまった方が得策なのかもしれないが、崇拝者リーダーと言う地位は、魔王崇拝者の中でもそれなりに高い。


 捕えて尋問すれば、何か有用な情報を吐くかもしれない。

 ――見逃すか。

 尤も、尋問をするのは面倒な為、王国の治安部隊に押し付けるつもりではあるのだが。


「ではでは、どうやってアジトを埋め立てようかな? 下手な手を打つと、僕自身も巻き込まれちゃう訳だし、慎重に事を進めないと……あ」


 ふと思い出す。

 自分には、とある超級な存在と繋がりがある事を。


「……と言う訳なので、ここを埋め立てるの手伝ってくれませんか?」


 即席で作られた召喚サークル。

 その中心にいるのは、神聖な雰囲気を纏った超級の精霊。顔はベールによって隠されて見えないが、女神なんて言葉が相応しい程に堂々とした立ち振る舞いだ。


 尤も「どうしてこの人は、こんな破廉恥な衣装を身に着けているんだろう?」と「え? そんな事の為に、わざわざ呼び出して来たの?」とでも言いたげな視線を、アリサに向けているのだが。


「本当に。お願いします!」


 土下座ならぬ土下寝を披露し、精霊に頼み込む。

 真摯な思いが功を奏したのか。

 はたまた、アリサの情けない姿を哀れに思ったのか。


 兎にも角にも、精霊の手によって崇拝者達のアジトは埋め立てられた。これで、孤児院の地下にアジトがあった事は誰も知らない。





 魔王崇拝者のアジトにカチコミをかけてから、数日が経過した。

 今日までの間、アリサは平穏な学園生活を送る事が出来た。

 

 攻略キャラ達と出会う事はなく。

 友人達と語らい。

 沢山の食べ物を食べて。


 楽しい日々を送っていた。

 とある噂が広がるまでは。


「あの……すいません。今、なんて言いましたか?」


 小耳に挟んだとある噂。

 聞き間違いだとは思ったもの、到底聞き流せるような内容ではない。

 話した事が無い同級生で有りながらも、思わず食い気味に聞いてしまう。


「え? ……えっと。『白の聖女』様が、破廉恥な衣装を身に纏って、魔王崇拝者達のアジトを壊滅させたって言う話だけど……。寧ろ、貴方の方は知らないの? 多分、王国中で噂になっていると思うけど」

「……マジかぁ」


 気紛れに善性を発揮するのでは無く、あの時殺しておくべきだった。

 しかし、時すでに遅し。

 アリサに出来る事は、噂が聞こえないようにする為に耳を塞ぐ事だけだった。


これにて1章は終わりとなります

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