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 厄介な相手。


 それが、ワイバーンをその身に宿す崇拝者リーダーに対しての、率直な感想だった。

 ワイバーンは竜種の内の一体。

 尤も、赤竜や黒竜と比べるとその血は薄い。


 所謂亜竜と呼ばれる存在だ。

 されど、亜種であっても竜は竜。

 決して油断出来ない相手で有り、舐めて掛かれば痛い目を見る。


 その牙も。その爪も。その尻尾も。その眼光も。その鱗も。その羽も。体を構成する要素全てが、武器となる。

 極めつけに、脅威となるのがブレス攻撃。


 種類によって、ブレスの属性は異なってくるが、ワイバーンの属性は炎。周囲一帯を焼き尽くす事など、造作でも無い。

 だからこそ、アリサは速攻で仕留めなければいけない。


 ワイバーンと一つになってしまった崇拝者リーダーにブレス攻撃を使わせてしまった時点で、アリサの敗北は確定してしまうのだから。


「どうした? 余りにも、圧倒的な力の差に絶望したのか? 中々に悪くない。中々に悪くないぞ! この力を振るい、貴様を存分に甚振りたい所ではあるが……生憎、興が乗らない。この力を振るう機会は、別に取っておこう。代わりに、貴様には竜種の象徴を見せてやろう! この、ブレス攻撃を!」


 早い。

 余りにも早すぎる。


「なっ!? 貴方、正気なんですか!? 今、この場には、まだ息のある貴方の部下が沢山いるんですよ!?」


 ブレス攻撃の範囲は広い。

 全力のブレスであれば、アジト一体を巻き込む事など造作でも無い。他の崇拝者も巻き添えを食らってしまうだろう。


「何を言うかと思えば! 我々は、死を厭わない! ましてや「魔王」様より賜ったこの力によって死ぬ事が出来るのなら、同志たちも本望だろう!」

「クッ、話が通じない……!」


 説得する事は不可能。

 実力行使によって、ブレス攻撃を止めるしかない。

 アリサは地面を蹴り、距離を詰める。


 手を伸ばせば、届く距離。そこから全力の一撃を食らわせる為に、崇拝者リーダーをぶん殴ろうとする。

 だが、アリサが殴りかかるのと、崇拝者リーダーが大きく口を開けたのは同時。口内から赤い残滓を覗かせた――と思えば、燃え盛る業火がアリサを呑み込む。


 アリサと会話をしている時点で、既に準備を終えていたのだろう。

 当然、食らうのはアリサだけではない。

 地面に倒れている崇拝者達も、全員ブレス攻撃に巻き込まれ、燃え盛る業火に呑み込まれていく。


「まさか、この私が何の考えも無しに、貴様と会話をしていたと思っていたのか? 甘い! 甘すぎるぞ! 貴様が私を止める為に、攻撃をしてくるなんて予想済みだ!」


 轟々と音を立てて燃える業火。

 崇拝者リーダーの眼前には、真っ黒な焼死体となったアリサが現れる――筈だった。


「……何故、だ? 貴様は……何故、私のブレス攻撃を食らっても尚、生きて居るんだ!?」


 業火の中から姿を現したのは、焼死体は愚か。火傷すらも負っていない、無傷のアリサだった。

 仮面は無事だが、全身をスッポリと覆っていたローブは全て燃え尽きてしまい、その下に身に着けていたバニースーツが露わになる。


 見せない為に、必死に隠していたバニースーツが。


「あり得ない! こんな、こんな事が……! だって、私は、竜種なんだぞ!? 最強と名高い、竜種が……」

「んなもん、知るかァ!」


 呆然としている崇拝者リーダーの顔面を、アリサは思い切りぶん殴る。

 顔面が陥没する勢いで殴った。


 しかし、相手は竜種。

 この程度では倒せないだろう。


「僕が一体、どれだけ頑張ったと思ったんだ! 見せたくなかったから! 見せたくなんて無かったから、必死に頑張ったのにブレス攻撃なんて吐きやがって……! お陰で、こんな恥ずかしい思いをしなくちゃいけなくなったんだぞ!」


 アリサは、崇拝者リーダーをキッと睨みつける。

 相手を射殺さんばかりに。


「お前、ただで死ねると思うなよ? ――完膚なきまで叩きのめす」


 アリサは奥の手を使う。

 使わずとも、勝てたのかもしれない。


 しかし使う。

 完膚なきまでに叩きのめすために。


「この身は剣。悪しき者を斬り払う、正義の剣」


 呪文の一節を口にする。

 たった一文。

 空気が劇的に変化する。


「この身は盾。災厄から人々を守る、聖なる盾」


 アリサの体を、淡い光が包み込んで行く。

 その姿は、僅かながらに神々しい。


「待て。どうして貴様がこの呪文を……いや、そうか? そうなのか!? 貴様が、貴様こそが『白の聖女』なのか!?」


 崇拝者リーダーの言葉なんて、アリサの耳には入らない。

 呪文を唱える事だけに集中する。


「この身は光。暗がりを払い、明日を迎える為の輝かしい光」


 全身に纏う光の勢いがどんどん強くなっていく。

 アリサは呪文の最後の一文を唱え、呪文の名を告げる。


「私は祈る。――白の福音に」


 眩い光がアリサの全身を呑み込む。

 反射的に目を閉じる崇拝者リーダー。目を開ければ、紋様がアリサの背後に浮かんでいた。それは『白の聖女』である事の証であると同時に『白の福音』が発動した事を知らせる印だ。


 ――勝てない。

 アリサを目にした瞬間、本能的に理解してしまう、圧倒的な力の差。


「……だから、どうした? 私には『魔王』様より賜った力があるんだぞ! しかも、ワイバーンだぞ! 最強と名高い竜種が一体! 貴様が勝つことの出来る道理なんて……ガッ、グギッ……!」


「それがどうかした? ワイバーンなんて、僕にとってはスライムと変わらない。何度も倒して来た良いカモだ」


 眼で追う事は出来た。

 だが、体が反応する前に、崇拝者リーダーは攻撃を食らう。

 気付けばぶん殴られて、気付けば吹っ飛んでいる。


 出鱈目みたいな強さ。

『白の福音』を発動した今のアリサにとって、その言葉こそが最も相応しい。

 アリサは『白の聖女』だ。


 彼女自身も時々忘れてしまいそうになるし、体のとある部分に刻まれた『白の聖女』である証にも目が入らなくなってしまう時があるものの、それでも『白の聖女』だ。

『魔王』に対して、唯一対抗できる存在。


 世界にとっての救世主。

 それこそが『白の聖女』だ。尤も、アリサの私生活を目の当たりにすれば、救世主らしさは一ミリも感じられないのだが。


『白の聖女』には『白の聖女』しか扱う事の出来ない、特別な魔法が存在している。

 アリサが普段使っている支援魔法とは違う。

 他の魔法とは一線を画す、強力な魔法だ。


 それこそが『白の福音』。

 魔法を行使する際には、長い呪文を詠唱しなければいけないものの、詠唱に成功してしまえば強大な力を手にする事が出来る。


「言っただろ? 完膚なきまでに叩きのめす、って。もう、お前の見せ場は無いんだよ!」


 殴って、殴って、殴って、殴って、殴りまくる。

 ワイバーンが持つ鱗であっても、障子紙程度の耐久しか期待できない。目に見えてダメージを食らい、これでトドメとばかりに思い切り吹き飛ぶ。


 壁に激突。

 同時にクレーターが出来上がり、崇拝者リーダーはその場に力なく倒れる。

 ワイバーンの力は彼の体から消えていき、元の人間へと戻りながら。


『白の福音』が齎す効果は限界突破。

 人の身を越えた力を手にする事が出来る。

 だからこそ、アリサが崇拝者リーダーに勝利したのは当然の事だった。


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